テロで深まったイスラム教徒への誤解を解くにはどうすればいい?【佐藤優のインテリジェンス人生相談】

【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

◆テロで深まったイスラム教徒への誤解を解きたい
パリより(ペンネーム)・輸入卸・女性・35歳


パリ同時多発テロで深まったイスラム教徒への誤解を解きたい【佐藤優のインテリジェンス人生相談】 出張でたまたまパリに来ていたときにテロが起こりました。私はパリ左岸(東から西に流れるセーヌ川の南側。テロが起きたのは北側の右岸)に宿を取っていたので、巻き込まれることはなかったのですが、近くのスーパーも荷物検査をするようになったり、何かと不便になってしまいました。

 やはり、イスラム系の人たちに対するチェックは特に厳しいです(右岸の5区にイスラム系の寺院などがあります)。仕方のないことで、彼女たちも「しょうがない」と受け入れていますが、イスラム国と同類のように扱われている人たちを見るといたたまれなくなります。

 外出しにくくなってしまった? と聞くと「だからこそ、いつも通りの生活をして、我々はイスラム国とは違う、彼らを絶対許さないというメッセージを発信しているんだ」と言っていました。だから、私もいつも通り、彼女たちに接しようと心がけていましたが、みんながそうできるわけではありません。

 彼女たちに対する偏見や誤解を上手に解くことはできないでしょうか? 私にできることがあれば教えてください。

◆佐藤優の回答

 あなたの姿勢はとても立派です。あなたのイスラム教徒の友人が「いつも通りの生活をして、我々はイスラム国とは違う、彼らを絶対許さないというメッセージを発信しているんだ」と述べていますが、こういうときは「何事もなかったがごとく」生活することが重要です。

 11月13日金曜日の夜、パリで発生した同時多発テロ事件では、1時間の間に7か所でテロ攻撃がなされ、これまでに132人の死亡が確認されています。こういう事件が起きたにもかかわらず、「何事もなかったがごとく」生活するにはたいへんな勇気がいります。あなたのような行動が、真の平和と和解をもたらすために重要なのです。

 フランスのオランド大統領は11月14日、国民向けにテレビ演説し、〈「恥知らずな攻撃を受けたフランスは『イスラム国』の蛮行と無慈悲な戦いを決行する。テロの脅威に同様にさらされている同盟国とともに、国内であれ国外であれ、あらゆる手段を駆使して戦う」と報復に言及〉(共同通信)しました。オランド大統領が述べる「あらゆる手段」で、まず取られたのが米国だけでなく、ロシアとの対テロ軍事協力です。フランスはシリアのIS支配地域に対する空爆を強化しています。

 しかし、ISの拠点を全面的に破壊しても問題を解決することはできません。オランド大統領は、怒りで原因と結果を取り違えてしまっています。ISが国際社会の秩序を混乱させている原因であるという見方は間違いです。サイクス・ピコ秘密協定(1916年)に基づいて、欧米の都合で中東の宗教、歴史、地理、部族の分布などと無関係に国境が引かれ、建設された国家が機能不全を起こしていることが原因で、その結果、ISが生まれたのです。中東に安定した新秩序が形成されない限り、ISを除去しても、別の名称の団体が、似たようなテロ活動を起こすことになります。

 率直に言って、この地に安定した新秩序が近未来に形成される可能性は低いと思います。従って、アッラー(神)によって制定されたシャリーア(イスラム法)によって全世界を単一のカリフ帝国(イスラム帝国)の下、暴力やテロに訴えても支配しようとする運動は今後も続きます。

 当面は、空爆でISの拠点を破壊するとともに、ISの要求を一切受け入れず、テロに関与した者については法規を厳格に適用して責任を取らせるという対応を続けるという対症療法しか打つ手がありません。テロを続けても目的が達成できないと判断すれば、ISは戦術を変え、とりあえずテロの流行は終焉します。しかし、根本原因である中東の混乱が解決されていないので、われわれが現時点では想定していないような面倒な問題がテロに変わって起きることになります。あなたには今と同じ行動を取り続けることをお勧めします。そうすれば、徐々にあなたに共感する人が増えてきます。

【今回の教訓】
何事もなかったがごとく生活することが重要

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【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』のなど著書多数。最新刊は『90分でわかる日本の危機

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