いま、ラジオ界でクリス松村が凄い――週に3つの音楽番組をこなす知識量と音楽愛

 クリス松村と聞けば、多くの人は独特な表情やアクション、そして大声で感情を露わにし、お笑い芸人たちから“いじられ”ているバラエティ番組のなかでの当人の姿を想起するだろう。

 そんなクリスがいま、大声やアクションをまったく使うことなく、喋りだけで勝負するラジオの世界で揺るぎない地位を築きはじめているのをご存知だろうか?

 現在クリスは、『クリス松村の音楽処方箋』(NHKラジオ第一、毎週月曜20時5分~)、『クリス松村の「いい音楽あります。」』(ラジオ日本系、毎週日曜20時~)、『クリス松村のザ・ヒットスタジオ』(MBSラジオ、毎週金曜深夜0時~)と、実に3つのラジオ番組でパーソナリティを務めている。(以下、『音楽処方箋』・『いい音楽あります』・『ヒットスタジオ』と記載)

 これら3番組の共通点は、すべて音楽番組であることだ。特に、『音楽処方箋』と『いい音楽あります』はともに2015年4月から開始しており、“いま”という時代にクリス松村という人が音楽に特化したパーソナリティとしてラジオ業界で強く求められているのは明らかである。

 クリスはなぜ、これほどまでにラジオ業界で重宝されているのだろうか? 本人へのインタビューをもとに紐解いていきたい。

スタンスを変えて各番組に臨む


 厳格な家庭で育ったクリス。幼少期はクラシックやオペラ以外を聴くことは許されなかったそうだが、ある日親に隠れるようにして聴いたラジオから流れてきた歌謡曲に衝撃を受け、それからは“音楽マニア道”まっしぐらだった。

 その過程は著書『「誰にも書けない」アイドル論』(小学館新書)に詳しいが、アイドル歌謡曲を中心にニューミュージックからフォーク、洋楽まで様々なジャンルの音源を買い求めてきた結果、現在自宅の資料室には約2万枚に及ぶレコード(EP・LP)やCDが収められているという。

 クリスは、「私のラジオ番組はすべて自分の選曲でやらせてもらっていて、その音源も私が自宅の資料室から持ち込んでいます」と語るが、週に3つの番組でそれを実践するのは大変と感じないのだろうか?

クリス「全然大変じゃないです。というのも、3つの番組それぞれ選曲の仕方が違うんです。

『いい音楽あります』はカセットのA・B面という設定でコンセプトを決めてコアな選曲をしているし、『音楽処方箋』では番組のコンセプトを生かしながら是非紹介したい素敵な曲をかける。そして『ヒットスタジオ』では、少しミーハー路線の聴きやすい音楽を、という具合です」

――そのように週に何十曲と選曲し、それぞれの曲について下調べもするわけですよね?

クリス「はい、放送の前に調べ直す作業は必須です。これは、パーソナリティとして絶対にやらなくてはならないことですね」

――テレビ出演の仕事などとも並行してそれをやるのは、やはり大変な作業のように感じられます。

クリス「大変なのは、資料室の片付けくらいですよ(笑)

それぞれの番組は、音楽について話す内容も違うんです。『いい音楽あります』では流す曲の演奏者やアレンジャーなどマニアックともいえそうな情報について、『音楽処方箋』は“処方箋”だからこそ歌詞の意味に特化して、そして『ヒットスタジオ』では、曲が発売された当時の音楽誌や雑誌から得たミーハー的な情報なんかを話します。

私の資料室には、音源だけでなく雑誌もたくさんあるんです。たとえば、“オリコン”が1979年に週刊誌として発売されてから90年代前半頃までのものはもちろん、オリコンが出していた“コンフィデンス”という、より詳細な音楽業界情報誌も1975年から豊富に揃っています。

私には資料室があって、そこには多くのモノがある。その資料で得てきた情報は、私にとっては当たり前のことですが、自分の当たり前は他の人にとっては当たり前ではなくて、当時の空気感も含め、それらの情報を皆さんに紹介できるのはとてもやりがいがあって楽しいことですよ」

テレビでのイメージを覆すラジオでの語り口調


 ラジオにおけるクリスの語り口調は、バラエティ番組での姿しか知らない人にとっては、少し驚くべきものかもしれない。とにかく、「冷静」の一言につきるのだ。

 ある曲や歌手がどれだけ好きかについて語るときも、コンサートの思い出を振り返るときも、常に一定のトーン。淡々と喋り続けるだけで聴いているこちらがクレバーな印象をもってしまう要因はやはり、人生のなかでクリス自ら集めてきた圧倒的な情報量にあるのかもしれない。

クリス「私は、数十年分の膨大なチャート資料をもとに、ある1曲やあるアーティストについて多角的に分析したうえでラジオで話すようにしています。たとえば、この曲はレコード売り上げは多いけどなぜラジオや有線のリクエストは少なかったのかとか、その人がどれだけ人気があったのかを示すために当時のプロマイド売り上げを見たりとか。

そのあたりはもう、本当に冷静に解説してますね。解説というより、事実を伝えるというほうが正しいかも。そういう作業も、楽しくてしょうがないです」

山下達郎の一言


 ここまで、クリスがラジオ番組に対してどのように向き合っているのかについて紹介してきたが、現在のような“自ら選曲し番組構成もすべて自分で考える”というスタイルになるには、あるきっかけがあったという。それは、山下達郎の一言だ。

 クリスは、その知識量と音楽愛から多くのアーティストに信頼を寄せられているが、山下もそのひとり。これまで三度にわたりラジオの特別番組で共演しており、山下のコンサートパンフレットでも対談ページが組まれている。

 クリスは、そんな山下からこう言われたそうだ。

クリス「達郎さんに、『クリスさんは自分の思う通りにやったほうがいい』と仰っていただいたんです。あの達郎さんが、そう言ってくれた。それがずっと力になってますね。

そう言われてからは、“自分でやる”というスタイルを押し通すことにしました。それによってちょっとイヤな奴になってしまったかもしれないけど、万人受けしないかもと思いつつあえて最もマニアックな構成にした『いい音楽あります』で高い聴取率をもらえたり毎週Twitterのトレンドに入ったりと良い結果が出たことが、いま自信に繋がってます」

ラジオでしかできないこと


 クリスは、いわゆる“ベタ”な曲やパワープレイの曲をかけることはしない。それも同じくスタイルのひとつと感じられるが、選曲の基準は何なのだろうか?

クリス「わたしは、音楽が最も輝いていた時代に青春をおくってきました。その当時に売れて花が開き、いまでも活躍しているアーティストはもちろん素晴らしいけど、その裏で残念ながら花が開かなかった曲やアーティストもたくさんいるんです。

私は、そういう人や曲にもスポットをあてたいと思って選曲しています。他のどこでもかからないけど、実はこんな良い曲があるんだよっていうことを伝えていきたいですね」

 さらに、次のように続けた。

クリス「そして、それをやれるのはラジオしかないんです。テレビではなく、ラジオ。ラジオがテレビ化してしまったらダメなんですよ。ラジオは、テレビでは伝えられないことを伝えなければならない。発言に関してもそうです。テレビでは言えない・言わないことを言わなくてはならない。ラジオは、そういう意味でとても魅力があるものだと思います」

「なんせ私はラジオで育ちましたから」――最後にそう話したクリスからは、深いラジオ愛があふれ出ていた。

 ラジオ愛と音楽愛。聴いているだけでこのふたつの愛が存分に伝わってくるからこそ、クリス松村は音楽系ラジオパーソナリティとして確固たる地位を築きはじめているのかもしれない。 <取材・文/宇佐美連三、撮影/長谷英史>

「誰にも書けない」アイドル論

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