更新日:2018年11月02日 22:13
恋愛・結婚

路上生活からNo.1ホステス、そして闘病…壮絶な人生を送る生島マリカの人生訓

『不死身の花』 生島マリカ。清原和博容疑者との恋愛も告白

写真は処女作『不死身の花』より(撮影/荒木経惟)

 山口組分裂という、日本アンダーグラウンド界に激震が走った2015年を締めくくるように、大物ヤクザの一代記に勝るとも劣らない凄まじい自叙伝が生み出された。まず表紙が秀逸だ。アラーキーが撮りおろしたウエディングドレス姿の美しさに、誰もが目を奪われるだろう。そして、帯に大きく記された意味深なメッセージ……。読み進めると、無名作家のデビュー作『不死身の花』の表紙をアラーキーが撮影する必然や、「もう許して。お願い」という言葉が、15歳で深い性的快感を知った著者の魂の叫びであることに誰もが面食らい、惹き込まれるはずだ。  著者の生島マリカ氏は、「船を漕いで日本に渡った」と語る宝石商の父親と、エキゾチックな美貌と数カ国語を操る頭脳を持ち合わせた母親のもと、裕福な在日韓国人として神戸に生まれた。しかし、幼少期から在日韓国人ということでいじめられ、また父親の再婚を機に継母に家を追われる形で13歳でストリート・チルドレンになり、団地の廊下で出前の残飯を探して食べて生き延びる。14歳という若さで借金を抱え、北新地に飛び込みホステスとしての人生をスタート。16歳で銀座デビューを果たし、その後はモデルとしても活動。プロ野球選手・清原和博や大物経済ヤクザの息子をはじめとする各界の猛者との恋愛、結婚、離婚、出産、癌の発病、レイプ……再びの癌。45歳になる今、作家として「死ぬこと以外のすべて」と闘い、自伝を書くことでこれまでの人生を昇華しようとしている。  差別、貧困、暴力、闘病……本作はあらゆる不幸が詰め込まれた手記だが、その不幸をも飲み込んでなお、前進を続ける著者の力強さに人生をサバイヴする勇気を与えられることだろう。本人の口からその根源を聞いた。  * * * ――幼少期に在日韓国人だったことを理由にいじめられることから始まり、13歳でストリートに放り出され工事中のビルで夜を明かしながらも、ソープに売られかけたところをお父様のデスクから持ち出した大物ヤクザの名刺で回避。ソープランド経営の巨額脱税で国税に狙われていた「法衣の錬金術師」をかばって鑑別所に送られたり、15歳でセックスの快感の上限を知り、その人から逃げるように上京して銀座デビューしたり、さらに上京する新幹線で偶然大物経済人と出会ってしまう“ヒキ”の強さ……。他にもインターポールに追われる男との恋愛、アラーキーの写真集のモデルになるなど、20歳になるまでですでに驚愕のエピソードの連続です。このあとの半生もあまりに壮絶すぎて、どのような経緯で自伝を書こうと思われたのか……これを世に出すことを躊躇されなかったのでしょうか? 「これを書かなければあたしは死んでいたと思います。だけど実際に本になると決まって、レイプのくだりを表に出すかどうかだけは迷いましたが、最終的には息子に相談して出すことにしました。精神的にも肉体的にも極限状態だった時に、パソコンを持っていなかったので最初はガラケーで、途中からそれを原稿用紙にペンで書くようになって、とにかく書くことで気持ちが落ち着いたんです。魂が浄化されるような感覚と言うと大げさに聞こえるかもしれないですが……原稿に向かって自分を吐き出すことが、唯一『生』を感じられる行為でした。 実際、20歳の時に、ある編集者から『自伝を書くべきよ』と勧められていたんです。でも、父も生きていたし、あたしも若くてそんなことが自分にできるとは思ってなかった。 それから約15年が経ち、レイプ被害にあったことが、この自叙伝を書き始める大きな動機になりました。さらに同時期に、父親のお墓を巡って継母とトラブルがあり、裁判をふたつ抱えることになってしまって、訴状や誓約書を書いたことも大きかった。継母は父の死後、あたしに『お金がないから葬儀代やお墓のお金を出して』と言ってきました。大阪に戻った頃はまだ未成年でしたが、バブル期の銀座で働いていたので小銭を持っていることにつけ込んできた。神戸にいる異母兄姉は、継母が本当は遺産や生命保険を手にしていることを知っていたので、誰も自分たちが出そうとはしない。とにかくそんな煮え切らない状況に腹が立って、私は継母にいくらかお金を渡しました。そして、必ずお墓を建てるようにと頼んだんです。 とは言え20年経っても、継母はお墓を建ててくれなかった。もう埒が明かないので、誓約書を書いてもらったんですが、結局裁判になったんです。ちなみに後に弁護士さんに訴状の下書きや誓約書を見せたら『これ自分で書いたんですか!?』と驚かれたくらいです。専門的な知識はもちろんなかったけど、生きて来た知恵で書けていたみたい(笑)。思い起こすと、子どもの頃から気分が沈むと自分の気持ちを書き綴ることはやっていたんですよね。でも、『不死身の花』を書く直接のきっかけはそうした事件があって、生まれてからこれまでの自分の人生を詳細に思い出し、綴ることから始まりました」

日給13万円から時給1200円を選べる「逆張り精神」

――執筆のきっかけが訴状の下書きとは……。その時にはもうお子さんがいらっしゃったんですよね? 子育てをしながら。 「そうです。当時、結婚していた相手ともうまくいっていなくて。自分で稼がないといけなかった。2度目の癌の手術の後に、いつ死ぬか分からないから自分の人生を書いてカタチにして残したいなって思い始めたんです。でも、本にするには東京に行かなくてはならない。上京するには資金を作らなければならなかった。過去には銀座や北新地で、同伴・アフターなしで日給13万円という記録も作ったことがある私です。当然、ホステスとして働くことを考えましたが、水商売として最高賃金を極めたんだから、どうせなら今度は最低賃金のところで働いてみよう! と思ったんです。あたしのことも、レイプのことも誰も知らない、しがらみのないところでどれだけやれるか、東京に行く前に根性もつけておきたかった。それに、同伴・アフターの必要もなく、原稿執筆の時間を多く取るにはキャバレーが一番効率が良いと思って。『ミス大阪』という戦前からやってる老舗のキャバレーで時給1200円でニッカポッカ姿のおじさん達の相手をしながら、待機中にも書きまくって気がつけば原稿用紙868ページにもなっていました。最終的に1/3程度削って完成させたんですが、もはや自分でもどのエピソードを削ったのか分からなくなってますね(笑)」  少女時代、銀座や北新地でのナンバーワンホステス時代など、つねにトラブルの連続の人生を送ってきた著者だが、旧知の知人女性から罠に嵌められ、レイプされてしまう……。レイプの描写よりも、そこに綴られる魂の叫びは、耳をふさぎたくなるほど悲痛だ。 『自尊心の強いあたしは、いつでも、何でも、どんなことでも自分で決めてきたのだ。十三歳の少女の時から。男でも、何でも、命がけでといってもいいくらい、魂の選択をしてきたつもりだったし、あたしくらいはあたしを大切にしたかったからだ。今までどんな男と寝ようが自分で選んできたし、ついた値段が気に入らなければ首を縦に振らなかった』 『運命はどうにもならなくても、最低、あたしぐらいはあたし自身のものでいたい。身体も、心も。ずっとそうして魂を汚さないようにしてきた。なのに、こんなふうに、自分の意志ではないところで自分の身体を一度でも誰かに自由にされるといのは、女が経験する、人としての尊厳が奪われた時の気持ちっていうのは、魂を奪われるっていうのは、こういうことなんだと身をもって知った』 『何回も死んでいるあたしたが、他人に殺されたと感じたのはこの時が初めてだった』  本能的に、警察よりもすぐに病院に行かねばならないと思い駆け込んだ病院で、更なる不幸が襲いかかる。なんと子宮口に癌が発見されるのだ――。 「レイプは忌まわしい出来事でした。が、それによって癌の発見が早まり命は繋がりました。子宮の全摘出も免れ……不幸中の幸いですよね」 ――確かに「不幸中の幸い」……ですが、地獄のような状況でどうしてそんなに前向きになれたのでしょうか? 「なんででしょうね(笑)。今、めっちゃ元気なんですよ、私。まず命があって、それに感謝する気持ちがあれば前向きになれるんじゃないでしょうか。 本にも書きましたけど、顔見知りの女の子から『あたし、自分自身にも色々あるけど、マリカを見ていたら、あたしも生きていけるっていう気になったわ』って言われたんですよ。あたしみたいな人間でも、人に勇気を与えられるんだなって。それがすごく嬉しかったんです。 レイプされた事実は、本当に辛かった。そのことを周囲の人が知っているということにも押しつぶされそうになりました。家から出られない日々が続いて、発狂しそうだった。でも、そういった中でも、時系列に沿って思い出しながら事実を綴っていくことで何とか正気を保っていられたんです。できることなら、いずれ私が体験したレイプの裁判で失敗したこと、最初の動きを間違えると不利になってしまうことや、法廷でどういうことがあるのか、そういったノウハウを同じ苦しみを味わっている女性のために書きたいと思っています。書いていくうちに、誰かを勇気づけたいという気持ちになりましたが、最初は書くことで自分が一番励まされてたんだと思います」 ――ちなみに、きっかけのひとつであるお父様のお墓はどうなったのでしょうか? 「色々なご縁のおかげもあって、昨年無事にソウルの母が眠る墓地の近くに建てることができました。本が出るまでは飛行機に乗れないなと思っていたのですが、やっと墓前に報告することができます」 <取材・文/日刊SPA!編集部>
不死身の花

夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私

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