おせち料理の「味が怖い」と感じるとき【コラムニスト原田まりる】

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 さて、お正月の風物料理であるおせち料理。JAの意識調査によるとおせち料理を年末年始に食べる人は20代〜60代の男女のうち64%、お雑煮を食べる人は75%と、お雑煮の方が人気のようである。私は年末年始に実家に帰った時はおせちを食べていたのだが、帰らない時はおせちは食べず、ただ正月気分を味わいたいので簡単に出来るお雑煮は食べていたので、完全にお雑煮側である。

おせち

写真はイメージです

 そして、正月におせちを食べたいかと聞かれると、どちらかといえば苦手なので、とりたてて食べたいとは思わない。なぜ苦手かというと、和食が嫌いであるとか味が単調であるからではなく、「味が怖い」からである。おせちで言えば、数の子やごまめがこの対象だ。口に広がる風味がリアルすぎて怖いのだ。数の子はプツプツザラザラとした歯ごたえと共に孵化間際の生命を擦りつぶしている気持ちに襲われる。そしてごまめは、甘い味付けの奥にあるはらわたの苦味が生々しく口に広がるからである。どちらも最悪感を感じずにはいられない味なのだ。

 これはおせちに限ったことではないが、何かを食べて「味が怖い」という感覚をもったことのある人はいるのではないだろうか。この味が怖いというのは、いいかえると「大人の味がわからない」という表現と近いかもしれないが、少し違う。どういうことかというと、食べ物の味がリアルすぎて、受け止めきれなくなる、という現象だ。

 例えば、最近ある回転寿司屋に行く機会があった。その店は、いわゆる行列の出来る回転寿司屋でマグロ、いか、えんがわと単調なメニューではなく本マグロのづけ、昆布締めのいか、焦がしえんがわと、ひとひねりしたこだわりを感じるメニューが並んでおり、味に定評がある店として人気を博していた。

 そしてその店で「毛ガニの味噌汁」を頼んだのだが、この毛ガニの味噌汁がまさに怖さを秘めた味をしていたのである。大きなお椀に毛ガニの半身が入った熱い味噌汁を一口すすると、口の中にぶわっと蟹の風味が広がる。かにみそが充分に溶け込んだ出汁、ほどよい潮の香りを嗅ぐわせる濃厚な味わいだ。舌に染み込むように流れ込む蟹の風味が凝縮された味噌汁なのだが、私はとっさに「受け止めきれない」と味に怖さを感じてしまったのだ。

 どういうことかというと、あまりにリアルな「蟹」感が全面に出ているために、料理を楽しんでいるというよりも、生物を捕食して食らっているというようなグロテスクな絵図が頭の中に広がってしまうのだ。料理を味わう、というよりも海で平和に生きていた生物を捕食して食らっているという弱肉強食のあり方を噛みしめるというか、進撃の巨人の巨人サイドになった気分。

 これは魚介類に限らず、ジンギスカンを食べた時に感じる獣臭さも同様の怖さがある。素材の味にリアリティを感じすぎて、料理の域を超えてしまう現象だ。

 生物を食らっている、という事実は「食べ物なんだから、あたりまえ」と言ってしまえばその通りなのだが、魚は切り身として、肉はロースやももなど部位ごとにパックに封入されて店頭に並んでいるものを調理して食べているのが日常である。

“素材”を“料理する”ことと、“生物”を“食らう”の間には、感覚的に大きな隔たりがあるなと感じたわけです。

 スーパーでは鳥の骨付もも肉が5本はいって1パック、などで売られているが、これはよくよく考えるとグロテスク。2本や4本なら生物として自然なだが、奇数で売られているということを人間におきかえて想像すると、なかなか残酷な現実だ。他人の足と一緒に1パックになって売られている状態なのである。

 だからといって動物をたべないベジタリアンやビーガン食に開眼するわけではないが、生物をたべているという生々しさを隠した料理の味に慣れてしまっている自分というものを実感する機会となった、回転寿司屋での出来事。

 年末年始、持て余す時間の中で、おせちに生物としての敬意を払いながら食べてみると、初詣とセットで、より心が浄化される清いお正月が送れるかもしれない。 <文/原田まりる>

原田まりる

今年もどうぞよろしくお願いいたします

【プロフィール】
85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU
原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/

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