フィクションからはじまったWWE史――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第4回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」WWEヒストリー第4回


 ビンス・マクマホン・シニアは、“ナショナル=全米”を切り捨てて“ワールド=世界”を選択した。

“無冠の帝王”アントニオ・ロッカの定番パブリティー写真(撮影者不詳)。1950年代にはこのモノクロ写真にカラー加工をほどこしたブロマイドも存在した。

“無冠の帝王”アントニオ・ロッカの定番パブリティー写真(撮影者不詳)。1950年代にはこのモノクロ写真にカラー加工をほどこしたブロマイドも存在した。

 WWWF(ワールド・ワイド・レスリング・フェデレーションWorld Wide Wrestling Federation)とNWA(ナショナル・レスリング・アライアンスNational Wrestling Alliance)というふたつの団体名称を比較してみると、WWWFのほうがNWAよりも大きな組織という印象を受ける。

 ナショナル(全国的な、全米の、国家の)よりもワールド(世界)、アライアンス(同盟、協力、協調)よりもフェデレーション(連邦、連合、連盟)のほうがはるかに権威があって立派な感じがする。これはあくまでも単語そのものの持つイメージである。

 1957年に起きたNWAの内部分裂はその後、約4年間にわたりアメリカのプロレス界を液状化させていく。1957年6月14日、シカゴでおこなわれたルー・テーズ対エドワード・カーペンティアのNWA世界タイトルマッチでの“まぼろしの王座移動”をきっかけに、カーペンティアを初代世界ヘビー級王者と認定する新団体がボストン(AAC)、ネブラスカ(オマハ版AWA)、アトランタ(ジョージア)、ロサンゼルス(WWA)に誕生する。

 1957年11月、初の日本ツアーからアメリカに戻ったばかりのテーズは、カナダ・トロントでディック・ハットンに敗れNWA世界ヘビー級王座を明け渡す。

 ハットンはNCAA選手権3回優勝、ロンドン・オリンピック(1948年)出場の肩書を持つ、いまでいうとちょうどブロック・レスナーやカート・アングルのようなタイプのアマチュア・レスリング出身の強豪だったが、まったく人気のない地味なレスラーだった。ビンス・シニアは“田舎のチャンピオン”をニューヨークにブッキングしなかった。

 その後、NWA世界王座はハットンからパット・オコーナーに移動(1959年1月9日=ミズーリ州セントルイス)するが、オコーナー政権誕生を不服としたバーン・ガニア派閥が翌1960年、NWAを脱退。ミネソタ州ミネアポリスに新団体AWA(アメリカン・レスリング・アソシエーション)を設立し、NWAの液状化現象はますます加速していく。

 そして、1961年6月、シカゴでバディ・ロジャースがオコーナーを下しNWA世界王座を手に入れる。ロジャースにとっては“予定”よりも4年遅れてのベルト獲得、内部分裂がつづくNWAにとっては、全米ナンバーワンの観客動員力を持つロジャースは、組織再建のためのベストの“人選”だった。

 ところが、ロジャースが世界チャンピオンになったことでこんどはビンス・シニアとサム・マソニックNWA会長の対立が表面化する。ロジャースはマディソン・スクウェア・ガーデンのドル箱スターとして数かずの興行収益記録を塗りかえていったが、マソニック会長とNWA加盟プロモーターたちはロジャースのブッキング権を完全に掌握したビンス・シニアの政治力・発言力が強大なものになることを危惧した。

 NWAは“奥の手”を準備した。この時点でセミ・リタイア状態にあった46歳のテーズをカムバックさせ、実力行使でロジャースの腰からチャンピオンベルトをひっぺがす作戦に出た。

 “ロジャース失脚”のシナリオは入念に描かれ、1963年1月24日、テーズはニューヨークとセントルイスの“中立エリア”にあたるカナダ・トロントでロジャースを下し、じつに5年2カ月ぶりにNWA世界王座に返り咲く。

 ビンス・シニアは、このタイトルマッチを“無視”した。そして、トロントでのNWA世界王座移動から4カ月後の5月17日、ロジャースは真新しいチャンピオンベルトを腰に巻いてマディソン・スクウェア・ガーデンのリングに上がる。

 新団体WWWFは「ブラジルのリオデジャネイロで開催されたトーナメント決勝でロジャースがアントニオ・ロッカを下し王座獲得」と発表した。ビンス・シニアは“フィクション”を使った。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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