“人間発電所”から“魔豹”ベドロ・モラレスへ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第8回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」WWEヒストリー第8回


 それは大長編シリーズの最終回とこれからはじまる新作シリーズのプロローグとがぴったりとかさなり合ったみごとなドラマだった。

ブルーノに代わる70年代前半のマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦の主役となった“魔豹”ペドロ・モラレス(『WWWFオフィシャル・プログラム』1971年2月の表紙より)

ブルーノに代わる70年代前半のマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦の主役となった“魔豹”ペドロ・モラレス(『WWWFオフィシャル・プログラム』1971年2月の表紙より)

 舞台はニューヨーク・ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン。ひとつのドラマが幕を下ろし、また新しいドラマが幕を開けた。1971年1月18日、“人間発電所”ブルーノ・サンマルチノがイワン・コロフに敗れ、7年8カ月間にわたって保持したWWWF世界ヘビー級王座から転落した。

 ガーデンには2万人を超える大観衆が集まっていた。古い資料によれば、この日の興行収益は8万5554ドル。現在のレートに換算すると約1018万円だが、当時の“公定通貨レート”の1ドル=360円で計算すると約3079万9440円。この数字はガーデンの興行収益新記録だった。

 有料入場者数約2万人で興行収益約8万5000ドルだから、チケット料金は平均4ドル25セント。プロレスは比較的、安くておトクなエンターテインメントだった。

 そんな“予告編”なんてなかったのに、サンマルチノとコロフのタイトルマッチはあたりまえのようにガーデンを超満員にした。同カードは前年にも2度、ガーデンをソールドアウトにしていた。

 “ロシアの怪豪”コロフ(本名ジム・パリス)はカナダ・モントリオール出身のフレンチ・カナディアンだったが、頭をツルツルに剃ってソ連人に変身して大成功した怪力ファイターだった。アメリカとソ連の“冷戦”の時代が生んだ典型的なヒールということになる。

 身長5フィート9インチ(約175センチ)、体重275ポンド(約125キロ)という、よくいえばがっしりした重量挙げタイプ、悪くいえばズングリむっくりの体型は、サンマルチノのライバルにはうってつけだった。

 サンマルチノからニューヨークの主役の座をバトンタッチされる“ラテンの魔豹”ペドロ・モラレスは、USヘビー級王者として前年1970年12月のカーデン月例定期戦でWWWFデビューを果たしていた。

 コロフは、トップロープからのフライング・ニードロップ一発でサンマルチノから3カウントのフォールを奪った。あってはならない光景に、ガーデンが凍りついた。数秒後、沈黙が2万人のため息に変わり、やがて落胆の嘆きへと変わっていった。コロフは、なぜかチャンピオンベルトを腰に巻かずにリングを下りた。

 ドラマのつづきはそれから3週間後の2月8日、ガーデンのリングに用意されていた。メインイベントはWWWF世界王者コロフ対USヘビー王者モラレスのダブル・タイトルマッチ。前チャンピオンのサンマルチノはその日、前座でギート・モンゴルを相手にシングルマッチをおこなった。

 リングのまんなかでモラレスとコロフが向かい合った瞬間、ニューヨークの観客はすべてを理解した。サンマルチノとコロフの対比がそうであったように、コロフとモラレスもまたまったく同じような体つきをしていた。濃いオレンジ色のタイツとそのタイツとおそろいの色のリングシューズをはいたモラレスがサンマルチノに代わる新しい時代のヒーローであることはだれも目にも明らかだった。

 コロフがモラレスをフルネルソンの体勢にとらえた。モラレスがコーナーのターンバックルを両足でキックし、モラレスとコロフはかさなり合うようにして後ろに倒れた。レフェリーが3回、キャンバスをたたいた。モラレスの右肩がかすかにキャンバスから離れていたが、微妙なポジションだった。

 レフェリーがモラレスの左手を上げ、リング・アナウンサーが“ニュー・チャンピオン、ペードロ・モラーレスッ!”とコールすると、ガーデンはハチの巣をつついたような騒ぎになった。

 白いドレスシャツにネクタイ姿のサンマルチノがリングにかけ上がり、新チャンピオンのモラレスに握手を求めた――。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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