ビンス・シニアが描いた“あるシナリオ”――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第11回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」WWEヒストリー第11回


 ペドロ・モラレスがWWWF世界ヘビー級王座を保持したのは、1971年2月8日から1973年12月1日までの2年10カ月間だった。

ビンス・マクマホン・シニア

ビンス・マクマホン・シニアが“第2次サンマルチノ政権”誕生のために描いたあるシナリオとは?(写真は『WWE Hall of Fame』オフィシャル・パンフレットより)

 王座獲得から1年7カ月後の1972年9月30日、ニューヨークのシェイ・スタジアムでブルーノ・サンマルチノとの“世紀の対決”が実現し、この試合は時間切れドロー――ニューヨーク市条例によるカーフュー(午後11時で興行中止)――でモラレスが王座防衛に成功した。

 いわゆる因縁ドラマではないベビーフェースとベビーフェースの紳士的な闘いだったから、同一戦から2週間後に開催されたマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦(10月16日)ではモラレスとサンマルチノがタッグを組み、“プロフェッサー”トール・タナカ&ミスター・フジが保持するWWWF世界タッグ王座に挑戦して反則勝ち(反則裁定のため王座移動なし)。ふたりのスーパースターの友情ストーリーをニューヨークの観客に印象づけた。

 この年、WWWFオーナーのビンス・マクマホン・シニアは、かつて犬猿の仲だったサム・マソニックNWA(ナショナル・レスリング・アライアンス)会長と和解し、それぞれの団体の配下選手の相互ブッキングをスタートした。

 NWA系テリトリーの主力メンバーが3カ月サイクルでWWWFエリアのツアーに合流し、WWWFの契約選手は東海岸エリアでのサーキットを終了するとNWA系テリトリーに“異動”。この交流路線をシステム化することによって、それぞれの団体がそれぞれの活動エリアでのカード編成とマッチメークの活性化を図った。

 70年代は東海岸エリアのWWWF、南部諸州と西海岸エリアのNWA、そして北部・中西部のAWA(バーン・ガニア派=アメリカン・レスリング・アソシエーション)のメジャー3団体による“不可侵条約”の時代だった。

 NWA加盟プロモーターとなったビンス・シニアはWWWF世界ヘビー級王座から“世界”の2文字を削除し、モラレスが腰に巻いていたチャンピオンベルトはそこはかとなくワールド・チャンピオンからWWWFチャンピオンに名称変更されたが、ニューヨークの観客はこのマイナーチェンジにはほとんど気づかなかった。

 感動の新チャンピオン誕生シーンから2年が経過した1973年になるとモラレスの人気は失速し、観客動員力の低下ははっきりと数字となって表れはじめた。ガーデン定期戦の常連層は、モラレスに対してサンマルチノを超えられなかった“代役のチャンピオン”というイメージを持ってしまった。

 ビンス・シニアの頭のなかにはあるシナリオが描かれていた。1973年11月12日のガーデン定期戦(メインイベントはモラレス対ラリー・ヘニングのWWWF選手権)のリング上で、次回定期戦(12月10日)の目玉カードとしてモラレス対ヘニングの再戦とサンマルチノ対スタン・スタージャックのシングルマッチが発表された。サンマルチノにとっては約1年ぶりとなるニューヨーク登場のアナウンスに観客は大きくどよめいた。

 それから約3週間後の12月1日、王座移動劇はフィラデルフィアのなんでもないハウスショーで起きた。メインイベントは、スタージャックがモラレスのWWWF王座に挑戦したタイトルマッチだった。

 モラレスがスタージャックをバックドロップの体勢で抱え上げると、スタージャックがコーナーのターンバックルを蹴った。両者ノックダウンとなり、レフェリーがすかさずダブル・フォールをカウントした。カウント3が入った瞬間、上になっていたスタージャックの右肩がかすかに上がった。そのまま試合終了のゴングが鳴った。

 そこにいた4500人の観客は、それが歴史的シーンだったとは知らずにアリーナをあとにした。タイトル移動のニュースが明らかにされたのは翌週放映分のテレビ番組の冒頭シーンだった。実況アナウンサーとしてマイクを握っていたのはビンス・マクマホン・ジュニア。約30年後に全米マット制圧を果たすビンスはまだ28歳だった。 (つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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