“人間発電所”から“生ける伝説”へ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第14回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第14回


 ブルーノ・サンマルチノは“ふたつの時代”を生きたチャンピオンだった。WWWF世界ヘビー級王者としての“第1期”は、年齢でいうと27歳から35歳までの7年8カ月間(1963年5月17日~1971年1月18日)で、“第2期”は38歳から41歳までの3年4カ月間(1973年12月10日~1977年4月30日)。

“第2次サンマルチノ政権”は1973年12月から1977年4月までの3年4カ月間。年齢にすると38歳から41歳にかけての円熟期だった。(写真は米専門誌『レスラー』表紙から)

“第2次サンマルチノ政権”は1973年12月から1977年4月までの3年4カ月間。年齢にすると38歳から41歳にかけての円熟期だった。(写真は米専門誌『レスラー』表紙から)

 1960年代前半から1970年代後半までをハリウッド映画の大ヒット作に置きかえてみると、『アラビアのロレンス』の時代から『ロッキー』シリーズの時代までということになるのだろう。サンマルチノはずいぶん息の長いヒーローだった。

 60年代が“人間発電所”の時代だとすると、70年代のサンマルチノは“リビング・レジェンド=生ける伝説”としての道を歩んだ。ニューヨークの観客はサンマルチノの肉体的な衰えをどこかで感じとりながら、それでもサンマルチノの存在そのものを敬愛した。

 サンマルチノが出場するマディソン・スクウェア・ガーデン月例定期戦は興行収益記録を塗り替えつづけ、ガーデン(収容人員2万225人)がソールドアウトになると、ガーデンのおとなりのフェルト・フォーラム劇場(収容人員4000人)のスクリーンで同大会の模様がクローズド・サーキット上映されるようになった。

 サンマルチノのガーデン定期戦の主人公としての“第2期”は、どちらかといえば名作のリバイバル、あるいは“続編”といったフォーマットになっていた。

 1974年の連続ドラマは、悪党マネジャーに転向した“銀髪鬼”フレッド・ブラッシーがソ連で発掘してきたという設定のニコライ・ボルコフ(元ベーポ・モンゴル)、ブラッシーがスカウトしてきた(とされる)元NFLプレーヤーのボビー・ダンカンとの闘い。60年代からの宿敵であるキラー・コワルスキーとのタイトルマッチ。チーフ・ジェイ・ストロンボーとコンビを組んでのジミー&ジョニーのバリアント兄弟との因縁ドラマもガーデン定期戦を超満員札止めにした。

 1975年の前半はスパイロス・アリオン、ワルドー・フォン・エリック、ジョージ“ジ・アニマル”スティールらベテラン勢との定番マッチのリバイバル。同年10月には“サンマルチノを倒した男”イワン・コロフが5年ぶりにWWWFのリングに登場し、サンマルチノとのディープなドラマの“続編”が封切りとなった。

 コロフとのタイトルマッチは3カ月連続でガーデン定期戦をソールドアウトにし、12月の定期戦(1975年12月15日)ではサンマルチノ対コロフのガーデン史上初となる金網マッチがラインナップされた。

 この日、アンダーカードでは1年5カ月後(1977年4月30日)にサンマルチノを下してWWWFヘビー級王者となる“スーパースター”ビリー・グラハムがガーデン定期戦デビューを果たし、“サンマルチノの親友”ドミニク・デヌーチをわずか9秒で下した。サンマルチノ対グラハムの初対決は、翌年1月のガーデン定期戦(1976年1月12日)で実現している。

 “運命のいたずら”といってしまえば、そういうことになるのかもしれない。サンマルチノにとっても、プロモーターのビンス・マクマホン・シニアにとってもまったく計算外のアクシデントが発生する。

 1976年4月26日、ガーデン定期戦のリングでサンマルチノは試合中に首を骨折してしまう。メインイベントは、サンマルチノ対スタン“ザ・ラリアット”ハンセンのWWWFヘビー級選手権。キャリア2年、まだ27歳だったハンセンはこの日、ニューカマーとしてガーデンのリングに立っていた。

 サンマルチノの首をへし折ったのは、“定説”になっているウェスタン・ラリアットではなくて、試合開始から8分経過の時点にハンセンが放ったシンプルなボディースラムだった。誤って脳天からキャンバスに落下したサンマルチノはケイ椎を損傷した。この事故は、サンマルチノとハンセンのふたりのその後の運命を変えてしまうのだった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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