“スーパースター”ビリー・グラハム出現!――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第17回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第17回


 “スーパースター”ビリー・グラハムは、まったく新しいテイストのヒール像をクリエイトした開拓者タイプのスーパースターだった。典型的なヒールであるにもかかわらず、とにかく観客動員力があった。

“スーパースター”ビリー・グラハムの伝記ドキュメンタリー『20 Years Too Soon(20年早すぎたスーパースター)』WWEオフィシャルDVDのジャケット写真

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 “熱狂的なブーイング”という表現があるとしたら、グラハムと観客のコミュニケーションがまさにそれだった。ニューヨークの観客はグラハムのキャラクターをよく“love to hateラブ・トゥ・ヘイト”というフレーズで形容した。直訳すると“憎むことを愛する”だが、ニュアンスとしては“愛される憎まれ役”といった感じになるのだろう。

 本名はエルドリッジ・ウェイン・コールマン。プロ・フットボール選手としてCFLのカルガリー・スタンピーダーズ、モントリオール・オーレッツに在籍後、1969年にプロレスに転向。カルガリーのスチュー・ハート道場“ダンジェン”でレスリングの手ほどきを受けた。

 カルガリー・マットでデビュー後、ホームタウンのアリゾナ州フェニックスで“ドクター”ジェリー・グラハムと出逢い、ビリー・グラハムに改名した。1960年代に一世を風靡した名タッグチーム、ジェリー&エディ&ルークのグラハム3兄弟の末弟という“設定”だった。ビリーというファーストネームは、グラハム自身が尊敬するキリスト教伝道師のビリー・グラハム大司教から拝借させてもらった。

 身長6フィート4インチ(約192センチ)、体重265ポンド(約120キロ)のボディーはプロレスラーというよりもいわゆるボディービルダー・タイプで、グラハムに変身してから2年後の1972年にはカリフォルニア州ベニス・ビーチの“ゴールド・ジム”でカメラマン数人の目のまえでベンチプレス585ポンド(約265キロ)をクリアし、このときの写真がボディービル専門誌の表紙を飾った。グラハムのトレーニング・パートナーは、あのアーノルド・シュワルツェネッガーだった。

 タイダイ(絞り染め)のロングタイツ、ヒザ下までの長いリングシューズ、サングラスといった定番アイテムを身につけるようになったのはこのころで、“スーパースター”というニックネームはブロードウェイ・ミュージカルの『ジーザス・クライスト・スーパースター』からアダプトした。

 サンフランシスコ(ロイ・シャイアー派)、ロサンゼルス(マイク・ラベール派)、AWA(バーン・ガニア派)を転戦後、グラハムは1975年12月にWWWFと契約。翌1976年3月まで約4カ月間、東海岸エリアをツアーした。

 マディソン・スクウェア・ガーデン定期戦ではブルーノ・サンマルチノが保持するWWWFヘビー級王座に2回挑戦(1976年1月12日と同2月2日)し、第1戦がグラハムのカウントアウト勝ち、第2戦がサンマルチノのレフェリーストップ勝ちで、スコアの上では1勝1敗という戦績を残した。

 ビンス・マクマホン・シニアがNWAフロリダ(エディ・グラハム派)をサーキット中だったグラハムにコンタクトを図ったのは、1976年10月。サンマルチノ対スタン・ハンセン、モハメド・アリ対アントニオ猪木の異種格闘技戦(日本からの衛星生中継)をダブル・フィーチャーしたシェイ・スタジアムでのビッグショーから4カ月後のことだった。

 首の負傷が完治しないままやや不本意な形で戦列復帰を果たしたサンマルチノは、ビンス・シニアに対して長期休養を申し入れていた。ビンス・シニアは、ポスト・サンマルチノ路線の主役をつとめることのできる“チャンピオン候補”の獲得を急いだ。

 ビンス・シニアとグラハムの緊急ミーティングは、フロリダ州フォートローダーデールにあったビンス・シニアの自宅でおこなわれた。WWWFがグラハムに提示した企画書には“1977年3月契約”と記されていた。グラハムは、タイプ印刷されたぶ厚い書類にゆっくりと目を通していった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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