「これは惚れ薬の効果なのか?」――46歳のバツイチおじさんはリゾートホテルを予約し、完璧なデートプランを練りまくった 【第11話】

英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出ることになった「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記、今回も2か国目・フィリピン編です。前回、いろいろあって一時帰国を果たすも、旅を再開するためにセブ島にとんぼ返りしたバツイチおじさん。そして今回、1か月に及ぶスパルタ英語合宿の卒業テストを受けることになりました。さて、バツイチおじさんは卒業 or 留年!? 後半は、旅のメンターからある秘薬を授けられることになるのですが……。今回もズンドコ節全開でお届けします!

英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅」【第11話 己のレベルを知り、背中も歯も痛くなる】

学校生活も4週間目に突入していた。
俺が振り込んだ授業料24万円(寮費や食事代も含む)とは1か月分のこと。
つまり、そろそろ卒業の季節なのである。

初めは慣れることに必死だったが、ここに来てある程度自分自身を客観的に見れるようになっていた。
英語は、なんとなく先生の言ってることが理解できる。初めの一週間でなんとなく英語が聞きとれるような感触を得たが、1か月経つと、それはただ単に耳が慣れていただけなんだと悟った。今は半分くらい聞き取れる。人間の耳って不思議だ。
1日11時間の勉強は相変わらず続けていたが、ひどい肩凝りに悩まされていた。
あまりもひどい時は、38度を超える高熱が出た。

若い人たちに比べると疲れが取れない。体重が少し落ち、げっそりしていた。
俺はこの時点で、学校の中で最年長だった。
レベル2からスタートした俺の英語漬け生活。週末に自分の実力をチェックするレベルテストがある。

つまり、卒業テストである。

不眠不休で初めてここまで勉強したんだ。
英語力がついている自信はあった。
レベルテスト当日。朝もちゃんと目覚め、ご飯も食べた。
この1か月、ほぼ酒を飲まず、朝昼晩のご飯をちゃんと摂る超健康的な暮らしをしていた。

「最後にちゃんとレベルアップして、この英語学校を卒業しよう」

飲んだ後のとんこつラーメンのような俺流の綺麗な〆方だった。
テスト開始5分前、教室に入り深呼吸をする。
試験官が入ってきた。いよいよレベルテスト開始だ。

ところが、試験が始まる前に事件が起きた。
試験官が試験の進め方や注意事項を英語で説明するのだが、まずこれがまったく理解できない。
「わわわわー」
安田大サーカスのクロちゃんように心で叫んだ。

ほどなくしてリスニングのテストが始まった。
速すぎてまったくついていけない。
リスニングが終わり、しばらく様子を見てると、周りの人たちは一向にテストを終えようとしない。
「もしかして…」
案の定、試験は続いていた。
試験官の言うことが聞き取れないのも自分の実力。
最後まで問題の意味すらわからないうちに試験は終わった。

結果は数時間後に出た。

レベル2(34.63%/100点)→レベル2(40%/100点)

1か月不眠不休で勉強していたのにもかかわらず、
レベルが上がってないどころか、たった5%ほどしか伸びていなかった。

「あんなに勉強したのに……」

この結果はさすがにこたえた。
46歳の俺は、仕事だとある程度のことはこなせてしまう。
結果が伴わなくても、まぁ、「評価した人に才能がなかったんだろう」と言い訳もできる。自分の得意分野で欠点を補うこともできる。
しかし、今回の敵は勉強を始めた1か月前の自分。
自分に言い訳しても意味はない。
老いてきた自分の能力とガチで向き合い、ダメ出しされたのだ。

「1か月で無理なら、もう1か月延長だ」

俺はあきらめの悪い奇人、後藤隆一郎。
24万円振り込み、もう1か月の延長を決めた。
これが、おじさんが戦いながら身につけた負けない技術である。

自分の実力が身に沁みてわかった俺は、さらに勉強に身を入れた。
だが、体は悲鳴をあげ、背中の痛みからなのか謎の高熱が出る。
ロキソニンで対処するも、疲れはピークを迎えた。
そんな時、世界一周を中断しなければならぬ最大級の大事件に見舞われた。

「歯が痛い」

出発前、虫歯の治療は友人の歯医者に緊急でしてもらった。しかし、2箇所だけどうしても間に合わず応急処置をしてもらっている箇所があった。そこが疼き出したのだ。
夜中に虫歯の痛みで目が覚めた。
「やばい、引くぐらい痛い」
ちなみに、虫歯は海外旅行保険が適用されない。どれだけの高額治療になるか想像もつかない。日本でも歯医者は高いのに。あと、フィリピンの歯医者に虫歯治療をしてもらうのが単純に怖い。一番恐れていたことが現実となった。

翌日、先生のジャセットにフィリピンの歯医者事情を英語で聞いてみた。フィリピンでは痛みが治まるまで我慢するとのこと。冷やしたり、薬飲んだり。でも、時には痛みで泣いてしまうそうだ。値段が高くて病院にはいけないらしい。
そのまま、我慢して授業を受けていたが途中でどうしようもなくなった。

「まじか……。世界一周終わり?」

どうしたらいいんだ。
痛みと戦いながら俺は一人悩んでいた。
すると、新生銀行カードのみ込まれ事件の時にタクシー代を貸してくれたさとみさんが声をかけてくれた。

さとみ「ごっつさん、どうしたんですか?」
俺「歯が痛くて、死にそうなんです。やばいッス」
さとみ「大丈夫ですよ。私も一度、ここで差し歯がとれて歯医者に行ったんです。そこ紹介しますよ」
俺「本当ですか? 日本人の先生ですか? 高いですか?」
さとみ「フィリピン人の先生です。日本ほどじゃないけど、腕はそこそこです。お値段もそこそこしますけど……。私は差し歯を入れただけなんで、虫歯治療はわからないです」

その歯医者に行くべきか行かざるべきか。
考える余地もないくらい、とにかく痛かった。
俺はさとみさんに住所を聞き、Jセンターモールにある歯医者へタクシーを走らせた。歯医者の前に到着すると、思った以上に綺麗でびっくりした。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1029904

中に入るとお客は子供が一人だけいた。
子供がいるなら大丈夫そうだ……。
美人受付が症状を聞いてきた。

俺「ナウ、ディスティース イズ エイク(今、ここの歯が痛い)」

俺はレベル2の英語力を駆使しながら説明をし、虫歯のある場所を指差した。
症状を理解した受付嬢は奥の治療台へと案内してくれる。
先生は20代のイケメン先生だ。

先生「オープン ユアーマウス」

俺は言われるままに口を開けた。先生は口の中をチェックし始め、女性の歯科助手がフォローする。ここまでは日本と変わらない。
しかし、チェックは5分経っても終わらない。
日本の場合、1~2分ほど口を開けっ放しだと、「口をゆすいで下さいね~」と小休憩が入る。あれって当たりまえだと思っていたけど、どうやらそんなことはないようだ。7~8分間、口を開けっ放しでよだれがダラダラと出た。
「ゲホッ!ゲホッ!」
よだれが喉に入ってしまった。そこで初めて休憩が入る。口を水でゆすいだ。
「これは油断ならんぞ」と身を引き締めた。

すると、先生から説明があった。

「ディスブロック イズ バッド イッツ ネセサリー キャナル(ここに虫歯がある。それにはキャナルが必要だ)」

ん? キャナルってなんだ?
俺の頭の中の単語帳では、キャナルは運河だ。
運河が必要ってこと?
歯科医はさらに続けた。

「ワンキャナル ワンサウザウント ファイブ ハンドレッド ペソ(一つの運河が1500ペソ)。ユー ニード シックスキャナル(あなたには6つの運河が必要です)」

俺は口を開けながら計算した。
1500×6=9000ペソ…………約2万3000円????

俺「ストップ! ストップ!」

俺は慌てて治療を止めた。そして、自分の歯の状態を冷静に分析した。
俺の歯にはすでに穴が空いているはず。歯医者の友人からそう説明を受けた。だったらそこに薬を入れて貰えばいいはず。俺はレベル2の英語力をさらに駆使して交渉を始めた。

俺「マイ フレンド イズ デンティスト ヒー セイ マイキャナル イズ オールレディ オープン(友人の歯医者が言うには俺の歯にはすでに運河がある)」
歯医者「……」

キャナルの意味も正しくはわからぬまま、俺は気合と顏力で説明を続けた。

俺「フロム ヒアー ツー ディープスポット メディシャン プリーズ(ここから深いところにまで薬を入れて下さい)」

イケメン歯医者は目をぱちくりさせた。

歯医者「イツ オケー」

その後、一時間ほど口を開けっ放しにしたまま、治療が終わった。
受付で待っていると、先生と美人受付が伝票を持ってきた。そして、治療費について英語で細かく説明始める。ちんぷんかんぷんだったが一応耳をそばだて丁寧に聞いた。俺は一番気になる質問をした。

俺「ハウマッチ?」
歯医者「フォーハンドレッド(400ペソ)」

400ペソ……1100円! 安い!
どうやらキャナルを薬だけで消炎、痛み止めを入れてくれたようだった。俺は安さと、先生の親切さと、自分の英語が通じた嬉しさで、思わず記念写真を撮った。後で、キャナルを辞書で引いたら根管という歯医者の専門用語だった。きっと根管治療をしてくれたんだと思う。
イケメン先生、ありがとうございました!

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1029910

学校に戻り、紹介してくれたさとみさんに報告をした。

俺「ありがとうございます!安くていい歯医者でした」
さとみ「歯は旅人にとって重要ですもんね。私も旅人なんでわかりますよ」
俺「えっ、さとみさんって旅人なんですか?」

話を聞くと、さとみさんは半年前に女一人で世界一周をしていた。しかも、初めはこの学校で英語を4か月間勉強し、その後、世界一周へと旅立ったとのこと。その後、旅先でイケメンのスペイン人男性と出会い、婚約。来年結婚してスペインのバルセロナに移住することが決まっている。

つまり、世界一周をして、花婿を見つけたのだ。

今はまた、結婚するまでの間この英語学校に戻り、スタッフとして働いている。まさにこの旅における俺のメンターである。ちなみにメンターは導師と訳される。スター・ウォーズではヨーダが導師にあたる。

「だから、ポイントポイントで俺を助けてくれてたのか」

俺は夢中になって、さとみさんの世界一周の話を聞いた。どうやって旦那さんと恋に落ちたのか? さとみさんが言うには、「ドミトリーで朝目覚めたら、隣のベッドに王子様のようなイケメンが寝ていて、一目惚れした」らしい。
旅人と言えば!
この連載の第三話でも書いているが、俺はさとみさんに「スラムダンク最終巻長者わらしべ」企画を説明をした。俺のバイブル「スラムダンク31巻」を出会った旅人の本と交換していき、旅の終わりに何の本になるのか?という趣旨の企画だ。すると、さとみさんはこの企画をすごく面白がってくれ、快諾してくれた。

さとみ「私が徳島県で編集者の仕事をしている時に影響を受けたエッセイがあるんです。どうしてもごっつさんに読んでもらいたいから、ちょっと待って下さい。徳島から取り寄せます」

数日後、さとみさんは徳島の地方紙に連載されていた、坂東良晃「まぼろしの旅」という旅の手記をくれた。本ではなく雑誌の切り抜きコピーだ。本の交換なのに初っ端から本ではなくなってしまったが、それもこの企画の醍醐味だ。これを読み終わったら、新たな旅人と交換してもらおうと思う。もちろん、このエピソードを添えて。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1029914

さらに、さとみさんは小さな小瓶を手渡してくれた。
さとみ「ごっつさんって世界一周花嫁探しの旅してはるんですよね? これ、使う日があれば……」
俺「なんスか、それ? コンドーム?」
さとみ「違います。惚れ薬です。黒魔術で作った」

それは、さとみさんがフィリピンのシキホール島という黒魔術の島に旅した時買った「魔女が黒魔術で作った惚れ薬」だった。惚れ薬を授けてくれるなんてさすが導師だ。これは香水として使用するらしい。
俺は匂いを嗅いでみた。
すると、即座にアナベルのことを思い出した。
アナベルにはこの時点で一度も話しかけられずにいた。俺はこう見えて好きな女性と話すのが怖い。離婚でさらに傷ついた。女子と楽しくしゃべるのは得意だが、いざ好きな人ができると、とたんに臆病者になってしまう。これ以上傷つきたくない。

「黒魔術の力を使えばアナベルを落とせるかも」

♪デーデーデー デッデデー デッデデー デーデーデー デッデデー デッデデー

脳内iTunesでダース・ベイダーのテーマが鳴った。
真実の恋とは違う邪悪な気持ちが増幅していく。
アナキン・スカイウォーカーがダークサイドに落ち、ダース・ベイダーになっていったかのごとく。

一週間後の週末、俺はビーティーシーモールというショッピングセンターで買い物をしていた。そこでコーヒーの無料券を貰った。無料ならぜひ飲みたい。コーヒーショップをウロウロと探していると、一人の気の強そうなアジアンな顔立ちの美女がハンバーガーをほう張っていた。すげータイプだ。俺は無料券を見せ、コーヒーショップの場所を訪ねた。

俺「エクスキューズミー フェアーイズ ディス コーヒーショップ?」
彼女「…あ、メイビー ゼアー」
俺「…あの…日本人ですか?」
彼女「はい。日本人です」

彼女の名前はえみりさん。20代後半の美女だ。セブ島の別の語学学校に通っているとのこと。東京の医療系の会社を辞めた後、オーストラリアの学校に通いながらワーキングホリデーをしていた。しかし、自分が納得する英語力に達してないため、もう一度セブ島の格安英語学校に入学したらしい。

俺「よくここに来るんですか?」
えみり「いや、初めてなんです。外は危険だからあまり出るなと学校の先生に言われてるんで。この辺、詳しいですか?」

ん? この展開は! もしかして……。

俺「いや、全然。校則が厳しいんで外に出れないですよ。もし良かったら、来週末にセブ島をウロウロしませんか?」
えみり「いいですよ。まだ、学校にもあまり友達がいないんです」

デートを誘ったらいきなりOKをもらった。
異国での運命的な出会い。しかも、お互い学生同士。
この急すぎる展開にどこか謎めいたものを感じた。
これはもしかして黒魔術の惚れ薬の効果なのか?

一週間後、デート当日を迎えた。
とはいえ、海外での初デート、どこにどう行っていいかもわからない。
ましてや俺はレベル2の英語しかしゃべれない。
死ぬほど遅いネットでいろいろ検索してみた。一応はテレビディレクター、良い情報を得るコツは掴んでいる。

「中途半端なレストランに行くよりも、ここはセブ島なんだから、ビーチリゾートで酒でも飲みながら、のんびりするほうが洒落てるんじゃないか?」

検索するといい条件のリゾートホテルが見つかった。
『ブルーウォーター マリバゴ ビーチ リゾート』
セブ島ではトップクラスの施設を持つビーチリゾートのようだ。

俺は早速LINEしてみた。

俺「おはようございます!水着って持って来てます?一応持っていきませんか?」
えみり「おはようございます!いいですよー!持っていきまーす!」

ん? 文面が跳ねてる跳ねてる!

俺「14時にどこにいきましょうか?」
えみり「ちょっと早くても大丈夫ですよー! 11時とかでも!」

あれ……。これは、向こうもかなり気合が入っている!

♪デーデーデー デッデデー デッデデー デーデーデー デッデデー
またもや脳内でダース・ベイダーのテーマが鳴った。

どうせならHotelのコテージを予約して遊んだほうが良いんじゃないのか? 着替えとかシャワーとかもそこでやったほうが便利だし。
「たまの休日にラグジュアリーな過ごし方もありなんじゃないか?」
昔、『レオン』という雑誌でちょいワルおやじのジローラモがそんなこと言ってた気がする。そう思い、ジローラモ風のニヤケ顔でちょいワル予約を完了。その後、タクシーで彼女の学校の前まで向かいに行くと、彼女は夏っぽい格好で登場した。可愛い!

えみり「どうします?」
俺「マクタン島のブルーウォーターってHotelのビーチとプールがすごく良いらしいので、そこはどうかなと思ってるんだけど…」
えみり「いいですねー」

快諾してくれた。
やばい。何から何までうまく行っている。
俺はジローラモの名言を思い出した。

「運命は電車と同じ。タイミングよく乗らないと、すぐに出てしまう イタリアではそう言われる」

わかるぜジローラモ! 
結局、恋ってタイミングと勇気なんだよな。
俺たちはタクシーに1時間揺られ、マクタン島のブルーウォーターHotelに着いた。バンブーでできた上品なHotelのフロントでチェックインすると、カートが横付けされる。そのカートに乗り、ビーチに向かう。えみりさんも「超サイコー!」と喜んでいる。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1029916

俺たちは昼ごはんを食べることにした。Hotelには三つのレストランがある。プール沿いのイタリアン、インターナショナルレンストラン、そして、水上に船のように浮いたシーフードレストランがあった。
俺「どのレストランがいい?」
えみり「水上レストランがいい!」

確かにレストランは素敵だった。魚が生け簀に入っていて、二人でチョイスして選ぶ。えみりさんは無邪気にロブスターや牡蠣、ホロホロなる白身の魚を頼んだ。白ワインをボトルで頼むと別の貝が付いてきた。調理は目の前でやってくれる。ハリウッド映画でアジアンビューティーな女優がアジアを旅する時のワンシーンのようだった。

「おいしいし、景色も超最高ですー」

何もかもがうまくいっていた。

「このまま、えみりさんと付き合うことになったら、アナベルどうしよう?」

♪デーデーデー デッデデー デッデデー デーデーデー デッデデー

脳内iTunesの中でダースベーダのテーマが鳴り響き、俺の背中を押した。

「行くしかないでしょう!」

すると、えみりさんが透明感のある声で言った。

えみり「私、そろそろ帰らなきゃならないです」
俺「ええっ! なんで?」
えみり「実は今日、こんなに遠くまで来るって思ってなくって、この後、バッチメイトのお別れ会を入れてしまったんです…」

なんか雲行きがおかしくなってきた。
本当は避けられているのかもしれない。
俺はドキュメンタリー監督マイケルムーアのように真実が知りたくなった。

俺「え? バッチメイトって何人ですか?」
えみり「一人です」
俺「男の人?」
えみり「女の人ですよ」
俺「何歳の人ですか?」
えみり「…22才くらいかな」

なるほど。言ってることに嘘はないようだ。
なんとかこの楽しいひと時を長引かせる方法はないのか?
あ、閃いた。俺は頭の中である奇策を思いついた。

俺「その娘も呼んで、ここでお別れ会開いちゃえばいいじゃないですか?」
えみり「…え?…その娘、ザ、女子校ノリですけど大丈夫です?」
俺「大丈夫、大丈夫。全然平気だよ」
えみり「わかりました。じゃあ聞いてみます」

えみりさんの友人は即OK。しかし、「一人でタクシー乗るのが怖い」というので、ほろ酔いのままタクシーに乗り込み、えみりさんの友人がいる語学学校に向かった。しかし、土曜の夕方は混んでいて、行きは1時間で着いた道のりが2時間30分もかかってしまった。

友人「こんにちは~」
俺「こんにちは!」

たしかに女子大生みたいな友人だった。
俺はタクシーの助手席に乗り換えた。彼女たちは後部座席に乗り込み、3人で再びマクタン島のブルーウォータホテルに向かった。
しかし、またもや道は激混みだった。
俺は疲れとお酒の影響で眠ってしまった。しばらく眠り、目がさめると後ろで女子トークが盛り上がっていた。俺は混じろうとするが、男の人を寄せ付ける空気はない。タクシーは全然進まず、結局ホテルに戻るまで2時間もかかった。
考えてみたら、俺とえみりさんは行きの1時間、友人を迎えに行くために2時間半、そしてホテルに戻るために2時間でトータル5時間半はタクシーに乗っていることになる。

そして俺は、魔法にかかったような不思議体験をする。
「逆再生」である。
ロビーに到着すると、カートが来て、えみりさんの女友達が「素敵~」という。レストランが三つある。俺は女友達に「昼間すでに水上レストランで食事した」と伝えたが、彼女は水上レストランを選択。昼間と全く同じロブスターや牡蠣、ホロホロなる白身の魚が頼まれる。

「これとまったく同じ光景、一度見たぞ」

女子トークは続き、俺をまったく受け入れる気配がない。
ついでに若い子のトークのスピードが速すぎて、英語より聞き取りづらい。

俺は完全に孤立した。

ご飯を食べ終わると、二人から「もう帰りたい」というオーラが出ていた。
俺は「じゃあ、タクシー呼ぼう」と二人をロビーまで見送り、そこで別れた。
その後、ちょいワル予約をしていたコテージのベッドに独り横たわった。

「女子高ノリ、凄かったなー。一切入れなかったなー」

俺はそう独りごちながら、無駄に贅沢な部屋を見渡した。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1030170

しかし、途中からは完全に孤立していたものの、今日のラグジュアリーデートは本当に楽しかった。
だから、こんなゴージャスな部屋で一人きりになっても、決して寂しくはない。そう自分に言い聞かせた。
これも黒魔術効果なのか、俺は寂しさで枕を濡らすことなく、眠りにつくことができた。

しかし、次の日の昼、チェックアウトの時に魔法が溶けた。

ホテル従業員「お会計は20779ペソ(6万7000円)になります」
俺「え? ホワイ!?」


ホテル従業員がマシンガントークで話す。
しかし、女子トークだけでなく英語も速くてやはり聞き取れない。
とりあえずは支払いをし、慌てて学校に戻る。そして、バッチメイトのYUKIにそのレシートを見せた。YUKIは大手監査法人に勤めていていつも正しいことを言う。

YUKI「ごっつさん、レシートチェックしました」
俺「間違いじゃない?」
YUKI「はい、間違ってますね」
俺「やっぱり」
YUKI「間違ってるのは、ごっつさんです」
俺「え?」
YUKI「ロブスター1匹、1万5000円するの知ってました?」
俺「……」

一回の食事が大体3万3500円ぐらいかかっていた。
ロブスターはグラム単価だが、一匹約1万5000円。昼夜2回食べた。
あとは白ワインを飲んで、牡蠣も食べて、ホロホロなる白身の魚も食べた。
約3万3500円×2回=約6万7000円。たしかに合ってる……。

ひえ~~。

YUKI「6万7000円じゃないですよ。ネットでホテル予約しましたよね? デポジットをすでに2万円払っているので、宿泊費込みで合計8万7000円です」
俺「………………」


黒魔術も恐ろしいがいつも上場企業の監査をしている大手監査法人のチェックはさらに恐ろしかった。
が、それよりも元嫁に指摘された、自分の金銭感覚のなさが恐ろしかった。
ついでに女子校ノリも恐ろしかった。

翌日、えみりさんからお礼のLINEが入った。
改めてデートを誘うときっぱり断られた。
やっぱりちゃんとした娘だ。
俺も昨日のお礼を言い、襟を正して心の中でこう叫んだ。

アナベル、他の子にうつつを抜かしてごめんよ!

次号予告「レベル2の英語力はいつになったら上がるのか? そして、アナベルとの恋にまさかの進展アリ!?」を乞うご期待!

●後藤隆一郎(ごとうりゅういちろう)
後藤隆一郎IVSテレビ制作(株)のADとして「天才たけしの元気が出るテレビ!」(日本テレビ)の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」「トリビアの泉」「学べる!ニュースショー!」など数々の番組制作に携わる。現在はディレクターを休業し、「大体1年ぐらい」という期間限定で花嫁探しの旅に一人で挑戦中。バツイチ、46歳、通称ごっつ。

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