カーライフ

「車好き」はマゾヒスティックな趣味である【コラムニスト原田まりる】

 日本で開催されている車の展示会は「東京オートサロン(大阪オートメッセ)」「モーターショー」が二大巨塔である。どちらも大規模なイベントであるがモーターショーは大手自動車メーカーが最新の車種や技術をお披露目するわりかしお堅いイベントである。  一方、オートサロンはチューニングカーやカスタムカーが展示され、大手自動車メーカーに限らず、さまざまな中小企業も出展している。そしてコンパニオン女性のコスチュームもモーターショーに比べ露出度が高かったりと、車好きにとっては“お祭り”と称するのにふさわしいイベントである。
原田まりる

オートサロンにて。一般の日に行ってきました

 そんな「東京オートサロン2016」が去る1月15日~17日の期間、幕張メッセで開催されたので、SPA!編集者のOさんと取材にいくことになったのだが、Oさんは初めて参加するオートサロンに少し怯えていた。なぜ怯えていたかというと全国のカスタムカー好きが集うイベントなので「北関東のヤンキーがいっぱいいそう」というイメージがあるとのこと。  車好きは、乗り物好きの中でも異質の扱いを受けている。同じ乗り物でも、鉄道オタクや航空機オタクは、ヤンキーが多そうと思われることはないのだが、車好き・車オタクになると一気にヤンキーが多いイメージへと変わるのである。  しかしこの“北関東のヤンキー”という言葉はある意味適切でもある。私は以前、自分が乗っていた車をいわゆる「走り屋仕様」にチューニングし、ドリフト走行会やサーキット走行会に参加していたのだが、このような趣味を持つ人たちの中でバイブル的扱いを受けていたのが「頭文字D」であった。頭文字Dとはヤングマガジンで連載されていた、峠の走り屋をテーマにしたマンガで、ストーリーの舞台が群馬県の秋名峠(榛名峠)とピンポイントで“北関東”である。  しかし、実際に東京オートサロンに足を運んでみると会場内には、黒いジャージにセカンドバッグといったオラついたヤンキーファッションの人々はちらほらいる程度で、ほとんどがおとなしそうな男性ばかりであった。  来場者の多くは首から一眼レフカメラをぶらさげ、熱心に展示車やエンジンルームの写真を撮影しており、中にはまだ免許を取得していないだろうという少年の姿もあった。少年たちは車好きであるものの、車を所有していない。そして少年たちに限らず、車好きには「好きだけれども車を持っていない」という人も多く存在する。そう、車趣味は、車をもっていなくとも楽しめる特殊性を秘めているのだ。
東京オートサロン

車と美女をしきりに撮影する人たち

なかなか満たされることがない趣味

 車趣味は一般的であるように思えるが、特殊な楽しみ方をする趣味である。まず車趣味は、物欲をなかなか満たすことが出来ない趣味だ。ゲームや楽器であれば、購入して楽しむということがまだ手軽であるが、車を所有するとなると、ゲームや楽器よりもハードルが高い。  車趣味は物欲を満たし、実際に楽しむよりも「あれカッコイイな、いつか乗りたいな」と羨望や憧憬をもつ時間が比重を占める趣味である。中古車雑誌をみて「最低でもこれくらいかかるのか」と調べたり、YouTubeで好きな車のエンジン音を聞いたり、憧れの車種に対し、思いを募らせる時間を楽しむ趣味でもあるからだ。  好きな車種を手に入れ、理想通りにチューニング・カスタマイズするには多額の出費がともなう。また購入資金が貯まったとしてもカスタマイズする際に、多くの選択肢の中からどのシートを使うか、どのステアリングにするかなど一つに絞り込まなければならない。またドライビングテクニックを磨くにも出費がかさむ。  このように車趣味は、すぐに満たされることがない。満たされるまでのコスパが異常に高い趣味なのである。「なかなか手に入らないもの」に対して想いを募らせ、切なさを味わいつづける、車好きはいわばマゾヒスティックな趣味とも言えるのだ。尚、常にエンジン音に耳を傾け、メンテナンスに手間をかけなくてはならないクラシックカーなんかはマゾヒスティックな車趣味の骨頂かもしれない。  また、会場では露出度の高いコスチュームを着たコンパニオンの美女の輝きに誘われるように、カメラを持った男性が壁を作っていたのだが、不思議なミルフィーユが形成されていた。壁の内側にいる男性ほど本格的な一眼レフ、中間がデジカメ、外側にいる男性はスマホと、カメラの性能による見事な断層だ。  東京オートサロンをはじめとするカーイベントで定番の“手の届きそうにない美しい車と、手の届きそうにないコンパニオン美女の組み合わせ”は、ダイレクトにマゾ心をくすぐる見事な共演のように思える。そんなことを久しぶりのオートサロンに出向いて感じたのだった。 <取材・文/原田まりる> ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1034344
東京オートサロン

美女と車はやはり絵になるし、憧れだ

【プロフィール】 85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU 原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/
私の体を鞭打つ言葉

突如、現れた哲学アイドル!「原田まりるの哲学カフェ」を主催する著者が放つ、抱腹絶倒の超自伝的「哲学の教え」

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