ビンス・シニアの“バックランド計画”後編――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第22回

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 ビンス・マクマホン・シニアに“世界チャンピオン候補”としてボブ・バックランドを推薦したのは、セントルイスの老プロモーター、サム・マソニックだった。

ビンス・シニアの“バックランド計画”後編

ビンス・マクマホン・シニアに、次期チャンピオン候補としてボブ・バックランドを推薦したのはサム・マソニックNWA元会長だった。マソニックは「バックランドはジャック・ブリスコのようなタイプだ」と説明したとされる。(写真は米専門誌「プロレスリング・イラストレーテッド」表紙)

 マソニックは第二次世界大戦後まもない1948年にアイオワ州ウォータールーで発足したNWA(ナショナル・レスリング・アライアンス=全米レスリング同盟)の発起メンバーのひとりで、1940年代から1970年代半ばまで30年以上にわたりアメリカのレスリング・ビジネスを牛耳った人物である。

 ビンス・シニアはこのNWAに反旗をひるがえし、1963年5月、ニューヨークに新団体WWWF(ワールド・ワイド・レスリング・フェデレーション=世界広域レスリング連盟)を設立した。これが現在のWWEのルーツだ。

 “犬猿の仲”といわれたビンス・シニアとマソニックは、1970年代になって和解し、WWEとNWAは共存共栄の道を選択した。61歳(当時)のビンス・シニアが71歳(当時)のマソニックにアドバイスを求めたのは、1976年夏のことだった。

 マソニックは「バックランドという27歳の有望なルーキーがいる」と答えた。ビンス・シニアにとって理想のチャンピオン像はあくまでもブルーノ・サンマルチノで、マソニックにとってのそれは“鉄人”ルー・テーズだった。

 マソニックは、テーズに代表される正統派のレスラー、正真正銘のプロフェッショナル・アスリートを好んだ。ビンス・シニアは、ベビーフェース=正統派がヒール=悪役をやっつける勧善懲悪ドラマこそがプロレスの王道であると考えた。「ワールド・チャンピオンとは実力、人気を兼ね備えた正統派であること」という点でふたりの意見は一致していた。

「バックランドはジャック・ブリスコのようなタイプだ」とマソニックはつづけた。名門オクラホマ州立大レスリング部出身、NCAA全米選手権優勝の肩書をひっさげてプロ転向(1965年5月)を果たしたブリスコは、まさにマソニックのイメージどおりのNWA世界ヘビー級チャンピオンだった。

 バックランドもノースダコタ州立大在学中の1971年にNCAA全米選手権(ディビジョンⅡ)に優勝し、1973年にプロ転向。マソニックの興行テリトリーであるNWAセントルイス地区では、あのハーリー・レイスを下しミズーリ・ヘビー級王座を獲得。ときのNWA世界王者テリー・ファンクに挑戦した試合では60分タイムアップの耐久マッチを闘い抜き、“次期チャンピオン最有力候補”に急浮上した。

 しかし、バックランドはすでにNWAの“人選”から外れていた。全米各地の加盟プロモーターたちが“共有財産”である世界チャンピオンに求めていたのは、ヒールあるいは必要に応じてヒールを演じることのできる中間色のベビーフェースだった。

 NWA加盟団体の各地のローカル・テリトリーにはそれぞれ地元のベビーフェースのチャンピオンがいて、年に数回ずつ遠征してくる世界チャンピオンがこれらのローカル・チャンピオンたちとタイトルマッチをおこなうというのがビジネスの鉄則だった。NWA加盟団体はこの“ピラミッド型の方程式”をかたくなに守った。

 1975年から1977年までの約2年間のあいだにNWA世界王座はブリスコからテリー、テリーからレイスへと移動をくり返した。文字どおりのベビーフェース=童顔で、レスリング・スタイルもキャラクターも典型的なベビーフェースのバックランドは、じつは全米各地のNWA加盟団体にとってはひじょうに使い勝手の悪いチャンピオン候補だった。

 ビンス・シニアは、このバックランドをWWEのリングで次期チャンピオン候補として“純粋培養”する計画を立てた。それは観客の潜在意識に訴えかける戦略だった。バックランドは、“スーパースター”ビリー・グラハムのWWEFデビューとほぼ同時にニューヨーク・ニューヨークのリングに登場した。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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