バックランド敗れる!――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第30回

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 それはひじょうに唐突な王座交代ドラマだった。“ニューヨークの若き帝王”WWEヘビー級王者ボブ・バックランドにとってマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦での最後の“笑顔のカーテンコール”は、マスクド・スーパースターとの一戦だった(1983年11月21日)。

バックランド敗れる!

“伏兵”アイアン・シークがボブ・バックランドを破りWWE世界ヘビー級王者となった(1983年12月26日=マディソン・スクウェア・ガーデン)。それはひじょうに唐突な王座交代劇だった。(写真は米専門誌「レスリングス・メインイベント」表紙)

 この日、前座の第5試合ではニューカマーのアイアン・シークがトニー・ガニアを下した。I・シークは4年まえにグレート・ハッサンのリングネームでWWEをサーキットしたことがあったが、ガーデンでメインイベントのリングに立ったのはいちどだけで、バックランド対ハッサンのタイトルマッチは、バックランドがフォール勝ちを収めてWWEヘビー級王座防衛に成功した(1979年6月4日)。

 ガーデン11月定期戦から2週間後のTVテーピングでは、I・シークがバックランドを襲い首を負傷させるという“事件”が収録されたが、そのI・シークが12月のガーデン定期戦でいきなりバックランドとタイトルマッチをおこなうというドラマ展開はいささか性急だった。ディテールにこだわるニューヨーカーは13年まえの“あるシーン”を思い出していた。

 1970年12月のことだった。“ロシアの怪豪”イワン・コロフがTVマッチでブルーノ・サンマルチノを襲い、右肩を“脱臼”させた。リング・ドクターはサンマルチノにタイトルマッチの延期をうながすが、サンマルチノはこれを拒否してコロフとの一戦を強行し、7年8カ月にわたり保持したWWE世界ヘビー級王座から転落した(1971年1月18日=ニューヨーク)。

 ビンス・マクマホンの全米マーケット進出計画はすでにはじまっていた。1983年夏、西海岸エリアのロサンゼルス、サンノゼの2都市で試験的なハウスショーがスタートした。ロサンゼルスは地元プロモーターのマイク・ラベールとのジョイント興行で、サンノゼはWWEの自主興行だった。

 ケーブルTVを使ったメディア戦略も同時進行していた。WWEは、テキサス州サンアントニオのローカル団体SCW(サウスウエスト・チャンピオンシップ・レスリング=ジョー・ブランチャード代表)が毎週日曜の朝、USAネットワークで放送していたプロレス番組の時間帯をそっくりそのまま買い上げ、そこに新番組“オール・アメリカン・レスリング”をレイアウトした。

 ビンスはUSAネットワークから“放送時間”と“CMタイム”をまとめて買いとることで、もともとそこにいたSCWをチャンネルから追い出した。USAネットワークもサンアントニオの“田舎のプロレス”よりもWWEとの継続的なビジネスを望んだ。

 WWEとUSAネットワークはそれから10年後の1993年、毎週月曜夜のプライムタイムに新番組“マンデーナイト・ロウ”の放映を開始し、この番組はWWEの看板ショーとして現在もつづいている。

 ビンス自身が司会をつとめる“オール・アメリカン――”は、全米各地のメジャー団体の試合をまとめたオムニバス番組だった。ビンスの“計画”をまだ知らないAWA、NWAクロケット・プロ、NWAフロリダ、ダラスWCCW(ワールドクス・チャンピオンシップ・レスリング)は“宣伝”として無償でWWEに試合映像を供給していた。

 “オール・アメリカン――”は、WWEのTVマッチとともにAWAのハルク・ホーガン、NWAのリック・フレアー、WCCWのケリー・フォン・エリックらの試合映像を番組の売りものとしてフィーチャーした。ビンスにとって、それは1年後のWWEの“予告編”だった。

 バックランド対アイアン・シークのタイトルマッチは、11分50秒、シークのキャメルクラッチが決まったところでTKO裁定となった。リング内にタオルを投入したのはバックランドのセコンドについていたアーノルド・スコーランだった(1983年12月26日=ニューヨーク)。

 通算5年10カ月にわたりマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦の主役をつとめてきたバックランドにとって、それはあまりにもあっけない幕切れだった。ビンスは、すでに次なるプランを実行に移しつつあった。近未来SF“1984”がはじまろうとしていた。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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