内定取消しの美琴、銀座を彷徨う――連続投資小説「おかねのかみさま」

みなさまこんにゃちは大川です。

連続投資小説『おかねのかみさま』19回めです。

※⇒前回「コンプライアンス」


〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる

〈第19回 美熟女の誘惑〉
「…あの…」

「はい」

「わたし、どうなるんでしょう」

「…会社として、お手伝いできることはないんですが…」

「はい…」

「あくまで私の個人的な意見でもよろしければ…」

「お願いします」

「…私も今回会社を去ることになるんですが、実は今朝方4時間かけて通勤してきたんです。昨晩から大雪降ってましたでしょ。あれの影響で。もうこの会社に勤め始めて20年になるんですが、一度も欠勤したことがなくて、もちろん電車が遅れたりすることもありましたが、そんなときは遅延証明書をしっかりいただいて、毎日欠かさず会社に来てました」

「はい…」

「で、今回出社して、元々知っていた問題が明るみになって、あー。ってなって今に至るというわけなんですが、会社がピンチのときに、会社のことを心配できなかったんです」

「はい…」

「つまり自分のことが心配で、会社のことまで気が回らなくて…」

「でも、それは仕方ないことですよ。私だって、いまは自分のことしか考えられなくなってますし、誰だってそうだとおもいます」

「そう。そうなんです。誰だってそうなんです。つまり、お客さんもそうなんです」

「おきゃくさん?」

「はい。お客さんも、より安くて良いものを求めるのがあたりまえなので、私がガマンして出社してることとか皆勤賞だったりとかはお客さんに関係なかったんです」

「でも!すごいですよ!マジメに出社するのって、社会人としての基本だと思います!」

「ありがとう。でもそうやって褒められちゃったから、時間だけ過ぎちゃいました。結局私がやってたことは、社会人なら誰でもやってることで、それ自体、お客さんにとってうれしいことをしていたわけではないんです。だから、今の私から言えるのは…」

「はい…」

「働いたら負けかなとおもってる」

「!!!?」

「それでは、良い人生を」

ガチャリンコ

※     ※     ※

「あ」

「…」

「…」

「ゲンキダシテ…」

「…」

「…」

「…しにがみさん」

「ハイ」

「あたしどうなるんでしょう」

「…」

「こんな時期に内定が取り消しになって、あたしは何も悪いことしてないのに、ずっとがんばってきたのに、突然目の前の橋がなくなったみたいに、人生って変わっちゃうもんなんですか?」

「ウン」

「…」

「デンワナッテルヨ」

「…」

「デンワ」

「でます。もしもし」

「もしもしー、きいてー」

「あ、うん」

「彼ピッピと銀座で待ち合わせしたんだけどー、急にオナカが痛くなったとか言ってキャンセルされちゃったのぉー。」
「うん」
「美琴いまなにしてるの?ひま?」
「あ、うん、えーと、うん」
「こっちこない?春物見ようよ」
「あ、でも、2時間くらいかかっちゃうよ…」
「オッケー。じゃあこっちついたらLINEしてね」

「うー、わかった」

ガチャリンコ。

「オデカケ?」

「うん。ちょっと行ってくる」

「ドコイクノ?」
「銀座」
「オー」
「…」

「タノシミダナー」
「え」

「ギンザ!ギンザ!」
「ついてく、る、の?」
「ウン!」

「どうしても?」
「ウン!」

「…じゃあ、準備するから畳の部屋にいてください…」
「ハーイ♪」

–京急久里浜駅

ホームに電車が近づくことを知らせるメロディが、美琴の気持ちを逆なでる。



–快特車内

「…」
「フンフンフー♪」

「死神さん」
「ハイ」

「あたしがここで窓から飛び降りたら、もういっそのこと楽になりますか?」
「ソウネ」

「…」

「デモ」
「はい」

「オカネノカミサマカラ」
「はい」

「オテガミヲ」
「あるの?」

「ドウゾ」


比較的早い段階で落胆したとき用手紙

——-
ミコト さん

この手紙を開けているということは、あなたはきっとこれからの人生に
落胆し、「あぁもう死んじゃいたい」等思っていることでしょう。

いままでに経験したことのない苦難を乗り越えられるかどうか不安なときに、
誰しも手っ取り早い解決法を探して、
安易にそういうことを考えたりするものです。

そんなとき、私からはいつもこういうことにしています。

「アホか。派手に環境を変えるチャンスじゃ」

それでは、良い人生を。
——-

「シニガミさん」

「ハイ」

「すっごくいいこと書いてあるとは思うんですが、こう、さっきのお手紙と違ってなんかざっくりしてないですか?」

「ギク」

「ここ、名前のとこ」

「…テンプレ」

「やっぱり…」

「ゴメンネ」

「いいんです。わたしこれくらいのことには動じなくなってますから」
「オー」
「オーじゃない」

ヒガシギンザァ
ヒガシギンザァ

「テクテク」
「…」

「こんにちは!」
「!!!」
「あの、ここらへんで200円バーって場所をさがしてるんですけどご存知ないですか?」
「いえ、ちょっと知らないです」
「シラナイデス」
「そうですか!ありがとうございます!」
「はい」
「ゴメンネー」

「おどおどしたひとだったね」
「ネ」

「みことー」
「あやー」
「アヤー」

「誰」

「えっと、親戚みたいなもの。預かってるの」

「ニガミデス」

「あ、預かってるんだ。はじめまして、綾です」

「意外と簡単に受け入れられるのね」
「うん。なんかかわいいし」
「エヘ」

「なんか買った?」
「うーん、いいなーって思うとやっぱり高いのよねぇ」
「ワカル」
「わかるの?」
「ウン」

「…こんにちは」

「は、はい」

「よろしければ、あたし、ここからすぐ近くでお店やってるんだけど、今度面接にいらっしゃいません?」

「!!!」
「!!!」

「すごーい!!!お店って、クラブとかそういうところですか?」

「はい。13階にあるのでサーティーンスフロアって言うんですが、お嬢さんお二人ともとっても華があるし、もしよかったら短い時間だけでも見に来ていただけたらなーって」

「ハー」

「ウチはお客さんも紳士的な方ばかりで、半ズボンの方なんかはお店に入ることもできない高級店だからとっても働きやすいとおもうの」

「でも、わたしたち、もうすぐ就職しちゃうから。ねぇ美琴」

「…うん」

「あら…、残念。じゃあもし会社づとめが退屈になったりしたら、いつでも遊びにいらしてね。お嬢さんたちなら、初日から結構人気出ると思うから。いつでもお待ちしてます」

「…はい」

「ありがとうございまーす。お姉さんもお綺麗です!」

「うふふありがと。このお仕事してると、ずっときれいでいられるのよ」

「すてきー!」
「ステキー!」
「…」

「じゃ、またね」

次号へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa

2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html

「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾

〈イラスト/松原ひろみ〉

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