ビンスが消そうとした“ジョージア”前編――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第33回

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 それは“プロレスファンのブラックサタデー”と呼ばれた。キリスト教でグッドフライデー(聖金曜日)はキリストが十字架にかけられた日で、ブラックサタデー(聖土曜日)は復活前夜。神のいない日。サタンの力がもっとも強い日として恐れられている。

ビンスが消そうとした“ジョージア”前編

ビンス・マクマホンはNWA加盟団体“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”の株式を買収、同団体の実質上のオーナーとなり、大手テーブル局TBS(ターナー・ブr-ドキャスティング・システム)の番組をそっくりそのまま手に入れた。

 アメリカでは、土曜日に悪いことが起きるとこの“ブラックサタデー”という表現がよく用いられる。NASAの宇宙探査計画が米議会で承認されなくなった日(1980年7月)も“ブラックサタデー”だったし、香港ドルが大暴落した日(1983年9月)も“ブラックサタデー”だった。

 いつものように土曜の夜6時5分にケーブルTVのチャンネルをスーパーステーションTBS(ターナー・ブロードキャスティング・システム)に合わせてみたら、画面に映っていたのはリック・フレアーやダスティ・ローデスではなくてハルク・ホーガンだった。番組名は“ワールド・チャンピオンシップ・レスリング”のままだったから視聴者はよけいビックリした(1984年7月14日)。

 TBSには1000本を超える苦情の電話が殺到した。NWAのプロレス番組を楽しみにしていたファンからの猛烈な抗議がほとんどだったが、「番組内容がUSAネットワーク(ケーブルTV)ですでに放映ずみのものと同じ」という視聴者からの指摘がTBSのスタッフを困惑させた。

 WWEは毎週火曜夜“プライムタイム・レスリング”(毎月第1週から第3週まではプロレス中継番組、第4週はプロレス・トーク番組“テューズデーナイト・タイタンズ”)という番組をUSAネットワークで放送していた。

 その日、TBSでオンエアされた番組は、タイトルもオープニング映像もテーマ音楽もたしかにいままでどおりの“ワールド・チャンピオンシップ・レスリング”だったが、コンテンツだけがWWEのTVマッチにすり替わっていた。

 “ブラックサタデー”は、すでにその3カ月まえに法的な準備=契約締結を終えていた。ビンス・マクマホンはNWA加盟団体“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”(ジョージア州アトランタ)の株式を買収し、同社の実質上のオーナーになった(1984年4月)。

 ビンスに“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”の株式を売却したのはジャック・ブリスコ、ジェリー・ブリスコ、ジェリー・オーツ、引退したプロモーターのポール・ジョーンズ(1970年代に活躍した同名のプロレスラーとは別人)の代理人の4人の株主で、4人の持ち株の合計はちょうど過半数ぴったりの51パーセントだった。

 ブリスコ兄弟らは、大株主オレイ・アンダーソンとフレッド・ワードのふたりを排除する形でこの買収プランをすすめた。「オレイはこの計画に反対するだろう」というのが兄ジャック・ブリスコの見解だった。

 “ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”は大きな赤字を抱えた団体だったため、株券は“紙切れ”と化していた。42歳の元NWA世界ヘビー級王者ブリスコは、この時点でレスリング・ビジネスからの引退を考えていた。

 ビンスは買収額75万ドル(当時の1ドル・250円換算で1億8750万円=推定)で“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”の株式を取得し、同社を休眠会社にした。WWEが手に入れたのは“テレビ王”テッド・ターナーがオーナーのケーブルTV局TBSでの番組放映権だった。

 ビンスのプランは、TBSとUSAネットワークのふたつのチャンネルで全米放映(同一番組を週に複数回シフトでオンエア)のプロレス番組を量産することで“南部のプロレス”をケーブルTV市場から消してしまうことだった。

 番組放映開始直後、アトランタのローカル新聞『アトランタ・コンステテューション』の取材を受けたビンスは「視聴者から苦情があることは知っています。プロレスファンはメジャーリーグとマイナーリーグのちがいを知ることになるでしょう。もう少し時間をください」と答えた。

 “旧体制”NWAとAWAのメジャー2団体は、WWEに対する反撃を開始しようとしていた。それはWWEの本拠地ニューヨーク・マーケットへの進出プランだった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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