ビンスが消そうとした“ジョージア”後編――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第34回

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 ビンス・マクマホンはNWA加盟団体“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”を買収し、アトランタのケーブルTV局TBS(ターナー・ブロードキャスティング・システム)の土曜夜の人気プロレス番組“ワールド・チャンピオンシップ・レスリング”をチャンネルごと“強奪”した(1984年7月14日放映開始)。

ビンスが消そうとした“ジョージア”後編

ビンス・マクマホンは、アトランタの大手ケーブル局“ワールド・チャンピオンシップ・レスリング”を番組ごと乗っ取り、番組の中身だけをWWEのTVショーに移行させた。しかし、“テレビ王”テッド・ターナーは「アトランタにはアトランタのプロレスがある」と考えた…。

 “ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”を同年4月に買収してから、番組のコンテンツをWWEのTVマッチに移行するのに3カ月という時間がかかった。これはちょっとした誤算だった。

 “旧体制”NWAの反撃は意外なほど早かった。ノースカロライナ州シャーロットを本拠地とするNWAジム・クロケット・プロモーション(ジム・クロケットJr代表)が、ニューヨーク・ニューヨークからは目と鼻の先のニュージャージー州イースト・ラサフォードでいきなりライブショーを開催した(1984年5月29日、メドーランズ・アリーナ=現在のアイゾット・センター)。

 リック・フレアー対リッキー・スティムボートのNWA世界タイトルマッチをメインイベントにラインナップし、ダスティ・ローデス、ロード・ウォリアーズらNWAの主力メンバーが出場したハウスショーは、予想を大きく上回る1万2000人の大観衆を動員した。

 このイベントには、ビンスがその買収と同時に“休眠会社”にしたはずの“ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング”の所属選手たちも顔をそろえていた。

 それから4カ月後、NWAクロケット・プロ、AWA(バーン・ガニア)、NWAジョージア(オレイ・アンダーソン)、テネシー(ジェリー・ジャレット)、ルイジアナMSWA(ビル・ワット)、プエルトリコWWC(カルロス・コロン)が6団体共同プロデュースの新番組“プロレスリングUSA”を製作。ニューヨークのケーブル局WPIXが同番組の全米中継を開始した(1984年9月放映開始)。

 1980年代のレスリング・ウォーは、WWE対NWA&AWA連合軍による“テレビの闘い”という図式になった。80年代前半、ケーブルTVはものすごいスピードでアメリカじゅうの一般家庭に普及していった。CNN(1980年開局)とMTV(1981年開局)の出現がケーブル市場をいっきに巨大化させた。

 ビンスの“メディア戦略”にあまりいい印象を持たなかった人物がもうひとりいた。“テレビ王”テッド・ターナーである。メジャーリーグ球団アトランタ・ブレーブスの共同オーナーでもあったターナーは、地元アトランタとそのスポーツ文化にひじょうに愛着を持っていた。TBSがまだアトランタのローカルUHF局だった時代から、毎週土曜と日曜の夕方の人気番組はプロレスだった。

 ターナーにとってWWEによる人気番組“ワールド・チャンピオンシップ・レスリング”への突然の参入=敵対的買収は寝耳に水のできごとであり、それは番組編成レベルに対する不当な“介入”を意味していた。ターナーは「ジョージアにはジョージアのプロレスがある」と考えた。

 視聴者からの1000件を超える苦情の電話もターナーを動かした。TBSはジョージアのプロレスファンのために毎週土曜朝7時の1時間ワクと番組制作費を用意し、オレイ・アンダーソンが新会社“チャンピオンシップ・レスリング・フロム・ジョージア”を設立した。結果的に、TBSはWWEとローカル団体の2本のプロレス番組をオンエアすることになった。

 翌1985年4月、WWEは番組視聴率の低迷を理由にTBSからの撤退を決定。番組放映権を100万ドル(推定)でNWAクロケット・プロに売却した。ビンスにとっては初めて経験する計画の“とん挫”だった。

 いまになってみると、このときのビンスとターナーの確執が1990年代のWWEとWCWの“月曜TV戦争”の遠因になっていた。ターナーは、それからさらに3年後の1988年11月、倒産寸前だったNWAクロケット・プロを買収して新団体WCW(ワールド・チャンピオンシップ・レスリング)を設立することになるのだ。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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