“国民的ブームの仕掛人”が明かす「ブームのつくり方」。ひこにゃん、うどん県、今年の漢字…etc.

 ひこにゃん、うどん県、佐世保バーガー、今年の漢字――。「地方」と「文化」を掛けあわせ、誰もが耳にしたことがある国民的ブームを次々と巻き起こしてきた仕掛人・PRプロデューサーでTMオフィス代表取締役の殿村美樹氏の著書『ブームをつくる 人がみずから動く仕組み』(集英社新書)が1月に上梓された。

 本書では、予算も実績もないブランドや商品を「ブーム」や「文化」に導くプロセスを明かしている。「情報があふれる世の中においては、本物の、心に響くストーリーが求められている」と話す殿村氏に、ゆるキャラブームの舞台裏に迫りつつ、時代の空気を察知するコツについて話を聞いた。

ひこにゃん

ゆるキャラブームの火つけ役となった滋賀県彦根市のキャラクター「ひこにゃん」

――2007年の「国宝・彦根城築城400年祭」では、滋賀県彦根市のキャラクター「ひこにゃん」に目をつけた殿村氏。主役を彦根城からひこにゃんにズラすことで、母性本能をくすぐる愛らしさが女性たちの心を掴み、今や全国区の人気者になったことは周知のとおり。では、その意図はどこにあったのだろうか?

「まず、『観光をリードするのは女性だ』という常識が、観光の世界には鉄則としてあるんです。男性は一人でふらっと来て帰ってしまったり、出張の帰りに来たりということが多いのですが、女性の場合は、だいたい誰かを一緒に連れてきて、お土産を買って、それを配ってクチコミまでしてくれるんですね。

 彦根城というのは、ちょっと地味じゃないですか。城主の井伊直弼が一番有名で、井伊直弼に付随するストーリーが『安政の大獄』『桜田門外の変』と、イメージ的にも暗くなってしまい、当時、彦根市の企画するイベントがとても暗かったんです。血染めの座布団と甲冑を並べた展示とか、歴史セミナーとか、それだったら観光客は来ないだろうと、客観的に見ていた滋賀県が心配したんですね。

殿村美樹

殿村美樹氏

 滋賀県からは『観光客を呼べ』とはっきり言われましたので、『じゃあ、女性を呼ぶには何があるやろう」と思って見たときに、城内には『ひこにゃん』しか見当たらなかった。それで、『ひこにゃんに協力してもらっていいですか」と彦根市さんに言ったら、『この猫でよかったら、どうでもやってください』と。今では信じられないですけどね(笑)。『彦根市の公募キャラクターだから、これはなんぼでも使っていい』と言われたんです。

 あくまでも主役はひこにゃんなので、『彦根城に来てください』ではなくて『ひこにゃんと楽しむ2007年彦根の旅』というタイトルで、わざと女性の記者さんを中心にお声をかけて、ひこにゃんに案内をしてもらって彦根を回るという旅を企画したんです。すると、ひこにゃんを中心にした記事がばーっと全国に出されたんですね。不思議なもので『ひこにゃんがかわいい!』という情報がいっぱい出ると、そう見えてくる。『ひこにゃんっていうかわいいものが彦根城にいるらしい』と評判になって、どんどん観光客が来て、盛り上がっていったんです。

 それを見ていた自治体が『ああいうのを作ればいいのか』と言って、ゆるいキャラクターの表面的なところを真似して、みんなが作ったんですね」

――現代の日本人が好む消費の要素に「物語」というものがある。かつて批評家の大塚英志は、消費者は「商品」だけでなく、それに付随する「ストーリー」を含めて消費している、と指摘した。そして殿村氏は、東日本大震災以降の日本では、さらに「物語消費」の傾向が強まっていると考えている。

 ゆるキャラブームは、個性の乏しい多くの地方自治体に個性を与え、物語消費の「登場人物」だけを先に用意した。しかし、多くのご当地ゆるキャラには「物語」が見当たらない。成功するか否かの違いは、どこにあるのだろうか?


「日本全国の『ゆるキャラ』のほとんどにはストーリーがなくて、自治体は表面的なところだけを真似していますよね。『ゆるキャラ』というのが流行っていて、どこの自治体でも作っている。評判らしいとなったら、すぐに活用されるんです。それでダメだったら終わり。これが行政の考え方の基本です。そのストーリーをまったく知らずに分析されて、わっと広がるんですね。こうして行政は動くので、何かが流行ったら日本全国に広がって、ブームになりやすい。

 例えば、徳島市のトクシィは『阿波踊り』のゆるキャラだとパッと見てわかるんですね。ただ『阿波踊りだから』というだけじゃなくて、これにストーリーをつけることでブレイクするんです。『阿波踊りを次世代に継承する』という大義ある仕事を託して、とにかく仕事をさせる。たったこれだけで、110のメディアに掲載してもらえました。ストーリーがあるものに共感して人は動くんです。千葉県船橋市の『ふなっしー』も、テレビで一生懸命頑張ってたじゃないですか。市に公認されないという恵まれない出発から、不遇にもくじけず奮闘するキャラクターというストーリーがつくられ、国民的な人気となりましたよね」

佐世保バーガー――「佐世保バーガー」など、地方の文化にスポットを当てる場合、地元ではその価値に気づいていないケースはよくあるという。排他的な地方でひとたび「ブーム」となり、地元の人から愛されれば、文化として定着することもある。

「佐世保バーガーなんて、米軍基地の文化をなぜ市役所がやらなきゃいけないのかと最初は随分言われましたね。地元では米軍基地の食文化だと思われていて、観光客を誘致できる宝物だとは気づいてらっしゃらない。栃木県の干瓢は、その魅力に気づいてもらえなかった。そこで、外からばーっとスポットを当てたり、テレビでもてはやしたり、外国人がこれがいいって褒めたりすると気づいて、そんなにいいものなら自分たちでと、ずっと守り育てていくんですね。そこに気づいてもらうことがポイントです。地元の人が誇りに思って大事にすると、その活動が文化につながって歴史になり、そして地域に根づくんです」

――2015年は「国民的ブーム」と呼べるほどの流行がなかった。人々の価値観が多様化し、大きく揺らいでいる現代において「流行」はどうなっていくのか?

「価値観の多様化と言われて久しいですが、去年は思いっきりスマホが浸透した一年でしたね。もう、おばあちゃんまで使っている。『国民総スマホ』と言えるほど浸透してきた時期で、2015年はちょうど移り変わりの一年だったんじゃないでしょうか。すべての国民がインターネットの影響を受ける時代になって、それがもう国民全体に広がっているように感じます。

 情報があふれすぎていて、何を信じていいかわからない今の時代は、本物が求められるだろうと思っています。お寺、仏像、歴史といった長年あるものは、人間に必要なものとしてずっと残っていますよね。世間の肌感覚を分析して作ってらっしゃる月9ドラマの『5→9 ~私に恋したお坊さん~』を見て、トレンディドラマにお坊さんが出るのは大きいな、と思いました。今ヒットしてる朝ドラの『あさが来た』も、映画になった『信長協奏曲』も、今に置き換えたものですが、本物のストーリーですよね。それがヒットするかしないかというので、時代の空気は読めるのかなと思います。

 わたしがハマってるApple Musicは、音楽の聞き方自体を変えてしまうもので、そういったApple Musicやロボットのような、技術的に最先端で革新的なものにも注目が集まるとは思いますが、一方で、中途半端はなくなって、その両極端になるんじゃないか、ずっと昔からある『本物』に関心を持つ傾向も高まるんじゃないかなと思います」

【殿村美樹】
PRプロデューサー。株式会社TMオフィス代表取締役。同志社大学大学院ビジネス研究科「地域ブランド戦略」教員。関西大学社会学部「広報論」講師。「ひこにゃん」や「うどん県」など、これまでに地方PRを2,500件以上手がける

<取材・文/北村篤裕>

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