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加藤シゲアキの小説を読んで思う「アイドルは何でもできる」【樋口毅宏のサブカルコラム厳選集】

―[樋口毅宏]―
さらば雑司ヶ谷』『タモリ論』などのヒット作で知られ、最新刊『ドルフィン・ソングを救え!』も好調な小説家・樋口毅宏氏。そんな樋口氏がさまざまな媒体に寄稿してきたサブカルコラムを厳選収録した『さよなら小沢健二』が好評発売中。本書の発売を記念して傑作テキストを特別公開いたします!(当コラムは『週刊SPA!』(扶桑社)2013年5月28日・6月4日合併号に掲載されたものです)  ようやく加藤シゲアキさんの処女作『ピンクとグレー』を読んだ。  ジャニーズ事務所所属で、NEWSのメンバーである加藤さんが、以前から何度となく僕の本を好きだと公言しているのは耳に挟んでいて、数か月前だったか、日刊スポーツで彼の本棚が公開されたときも僕の本が写っていた。最近でも女性誌『SPUR』で「一番好きな作家は樋口毅宏さんです」と語ってくれていてありがたいと思っていた。
加藤シゲアキのデビュー作『ピンクとグレー』(角川文庫)。

加藤シゲアキのデビュー作『ピンクとグレー』(角川文庫)。行定勲監督により映画化され、全国順次公開中!

 そういうこともあって、ようやく去年の一月に上梓された『ピングレ』を読んだ。読み始めるまでは、「アイドルが書いた小説でしょ?」と、自分の中に驕りのようなものがあったことを素直に認めたい。しかし苛立ちと嫉妬に支配された感情を抑制と吐露の巧みなバランスで描いていて、序盤からぐいぐいと引き込まれてしまった。最近他に読んだ、世間では高尚とされるノンフィクションや大先生と呼ばれる作家の本よりずっと面白かった。マジで。  偉そうに聞こえたら申し訳ないけど、瑕瑾はいくつか散見するものの、年齢と飲み物で章立てされたユニークな構成、萌え系要素、クライマックスの狂気と疾走感など、魅力的な部分が多いのでまったく問題にならなかった。特に、後半からは完全に一気読みだった。  そもそも僕は「アイドルは何でもできる」と思っている。アイドルは極めて有能な「人種」だ。才能がある人でなければアイドルは務まらない。その認識を新たにしたのが、数年前に放送されたTBS『情熱大陸』だった。嵐の二宮和也が、以下のような旨のことを話していた。 「アイドルって凄いよな。空気読むの得意だし、みんなが何を欲しがっているかわかる」 「アイドルってバカにされるのが嬉しい」  すげえよ。『ロッキング・オン・ジャパン』を読んでいてもこのレベルの発言が吐けるミュージシャンはいない。他にも、「アイドル=万能説」を実証できる人物や証言は、枚挙に暇がない。  ONE OK ROCKのボーカルのTakaを見てほしい。シングル「完全感覚Dreamer」のMVを観たときは吹っ飛んだ。体のキレ、ロック所作など、腹の突き出たオヤジはまったく相手にならないと思った。Takaはジャニーズに在籍していたが『BUBKA』に喫煙写真が掲載したため、学校を退学に追いやられ、事務所をクビになってしまった。それでもホンモノは挫折があっても必ず再起する。  僕が最も尊敬する演劇人、つかこうへいは人格攻撃も辞さないほど演技指導の厳しい人だったが、「まさかここまでやるとは……!」と感嘆させたのは稲垣吾郎だった。水道橋博士も’97年のブログで拍手喝采のテキストを記しているので、そちらもお目通しください。  そして加藤シゲアキさんの『ピンクとグレー』に話を戻す。  本として世に出すかぎり、編集者の指摘、校正のチェックは必ずある。もちろん彼の原稿も添削されて、直すべき箇所は修正されただろう。それでも断言できる。『ピンクとグレー』がどこかの文学賞に応募されていたら、最低でも最終選考には残っていたと。  加藤シゲアキの幸運は彼の知名度のおかげでたくさんの人に読んでもらえること。不幸は彼がアイドルのため正当な評価を得ないこと。だけど、どうぞ世間のイメージを覆していってほしい。ビートルズだって世に出てきた当初はアイドル扱いだったんだから!
樋口毅宏の“愛”溢れるコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)

樋口毅宏の“愛”溢れるコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)は好評発売中!

樋口毅宏●‘71年、東京都生まれ。’09年に『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。新刊『ドルフィン・ソングを救え!』(マガジンハウス)、サブカルコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)が発売中。そのほか著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』など話題作多数。なかでも『タモリ論』は大ヒットに。
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