ビンスが確信したPPV=プロレス経済――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第42回

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 ちょっとむずかしいトリビア・クイズということになるかもしれない。WWEのPPV第1弾は“レッスルマニア1”ではなくて“レスリング・クラシック”(1985年11月7日=イリノイ州シカゴ、ローズモント・ホライズン)という単発のイベントだった。

ビンス・マクマホンは、PPVこそプロレス経済の近未来形だということを1985年の時点ですでに確信していた。

ビンス・マクマホンは、PPVこそプロレス経済の近未来形だということを1985年の時点ですでに確信していた。(写真はロディ・パイパー、ルー・アルバーノ、そしてシンディ・ローパー。『WWEオフィシャル・マガジン』表紙より)

 いまから30年ほどまえ、PPV(ペイ・パー・ビュー=契約式有料放映)はまだ開発途上のテクノロジーだった。アメリカでは、1980年代前半にケーブルTVの急速な普及によってテレビの有料化がすすんだ。ケーブルTVで有料チャンネルを視聴するには、専用の“ボックス”を購入しなければならなかった。日本でいうところのチューナーである。

 ケーブルTVの無数のチャンネル群のなかからさらにアップグレードされたプレミアム・チャンネルとしてスタートしたのが、視聴者が1番組ごとに受信料を支払うPPVプログラミング――Pay Per Viewを直訳すると“観るたびに払う”――だった。

 このテクノロジーがケーブルTVに導入されてから最初の数年間は、PPVといえば劇場公開からまもない新作の映画、話題の映画を(ビデオ化よりも先に)自宅のテレビで有料受信するための“ムービー・チャンネル”のイメージだったが、当時はアメリカの多くのメディア関係者も一般家庭用のテレビの有料化にひじょうに懐疑的だったという。

 ビンス・マクマホンは、このPPVこそプロレス経済の近未来形だということを確信していた。WWEは“レッスルマニア1”(1985年3月31日)を全米133都市の映画館、劇場、小アリーナでクローズド・サーキット上映した。“生中継”の試合映像をいかにして商品化するかがビジネスとしての最大のテーマだった。

 PPVとは、かんたんにいえば一般家庭のテレビの上に設置されたケーブル・ボックスに向けてクローズド・サーキット上映をおこなうことだ。ビンスは「PPVが観客数と興行収益を天文学的数字に変える」ととらえ、じっさいにこの“仮説”は数年後には現実となった。

 ビンスにPPV市場への進出を決意させたのは、あるイベントの意外な観客動員数だった。オハイオのステート・フェア(州のお祭り)とのコラボレーションで開催した“無料試合”が、オハイオ州コロンバスのステート・フェア・グラウンドに5万人という記録的な大観衆を動員した(1985年8月13日)。

 メインイベントにラインナップされたハルク・ホーガン対ビッグ・ジョン・スタッドのシングルマッチは、因縁ドラマの完結編ではなくて、どちらかといえばなんでもないハウスショー仕様の“ホーガン劇場”だった。

 ビンスは5万人の大観衆を眺めながら「この10倍、いや100倍の観客がPPVを視聴することになる」とつぶやいたという。

 記念すべきPPV進出第1弾となった“レスリング・クラシック”の目玉カードは、ホーガン対ロディ・パイパーの“完全決着戦”と16選手出場のワンナイト・トーナメントのダブル・フィーチャーだった。

 トーナメント戦ではアドリアン・アドニス対ダイナマイト・キッド、リッキー・スティムボート対デイビーボーイ・スミス、ランディ・サベージ対スティムボート(準決勝)、キッド対サベージ(準決勝)といった好カードが実現し、決勝戦ではジャンクヤード・ドッグがサベージを下しトーナメント優勝を飾った。

 ホーガン対パイパーのシングルマッチは、またしてもパイパーの反則負けという定番の不透明決着に終わった。この日のライブの観客数は約1万4000人。PPVは約5万世帯が受信した。

 1985年当時、PPVが受信可能な一般家庭は全米でまだ200万世帯程度だったとされるから、この契約5万件という数字はマーケット全体の約2.5パーセントの占拠率にあたる。ビンスはこの時点で隔月ペースでPPV開催をもくろんでいたが、採算ラインとして算出されていた契約10万世帯をクリアできなかったため、この計画はいったん保留となった。

 1月の“ロイヤルランブル”、春の“レッスルマニア”、8月の“サマースラム”、11月の“サバイバー・シリーズ”が年間4大PPVとして定着するのは4年後の1989年のことだった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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