元祖“ザ・ロック”ドン・ムラコ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第44回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第44回


 ニューヨーク・ニューヨークのヒールは、とにかく大きくて悪くてわかりやすいことが基本である。“マグニフィセント”ドン・ムラコは、1980年代を代表する典型的なニューヨーク・スタイルの大型ヒールのひとりだった。

ビンス・マクマホンは、ドン・ムラコに“ザ・ロック”というニックネームを与えた。

ビンス・マクマホンは、ドン・ムラコに“ザ・ロック”というニックネームを与えた。もし、ムラコが“ザ・ロック”としてヒット商品になっていたとしたら、1990年代後半にザ・ロック(ドゥエイン・ジョンソン)というスーパースターは出現していなかったかもしれない。(写真はWWEオフィシャル・プログラム表紙より)

 身長6フィート3インチ(約190センチ)、体重275ポンド(約125キロ)のフレームにみごとなまでにパンプアップされたボディービルダー・タイプの体つき、いかにも悪役らしい憎々しげな顔つきはハルク・ホーガンのライバルにはうってつけのキャラクターで、ポスト“レッスルマニア1”路線のマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦では3カ月連続でホーガン対ムラコのWWE世界ヘビー級選手権がラインナップされた。

 第1戦はムラコがホーガンに場外カウントアウト勝ちを収め(1985年4月22日)、第2戦ではホーガンが反則勝ち(同5月20日)。第3戦は完全決着戦として金網マッチがおこなわれ、大流血戦の末、ホーガンがエスケープ勝ちをスコアした(同6月21日)。

 ムラコは1949年9月10日、ハワイのサンセットビーチ出身。ハイスクール時代はフットボールとアマチュア・レスリングで活躍し、1970年に21歳でプロレス入り。ハワイ、AWA、サンフランシスコ(ロイ・シャイヤー派)をサーキット後、1974年にNWAフロリダ地区をツアー中にダスティ・ローデス、ジャック・ブリスコらとの闘いでヒール道に開眼した。

 ムラコは、ガーデン定期戦のリングで2度、歴史的な試合の主役を演じた。ひとつめはWWEヘビー級王者ボブ・バックランド(当時)との60分フルタイムのドロー(1981年8月24日)で、もうひとつは“スーパーフライ”ジミー・スヌーカとの伝説の金網マッチ(1983年10月17日)。

 あのミック・フォーリーが学生時代にまる1日がかりでヒッチハイクをつづけてマンハッタンのどまんなかのガーデンまでたどり着き、超満員札止めだったため、ダフ屋からチケットを買ってこのムラコ対スヌーカの金網マッチをリングサイド席で観戦したことはあまりにも有名なエピソードだ。

 金網マッチはムラコの場外エスケープ勝ちに終わったが、試合終了後、スヌーカが金網最上段からいまも語り継がれる“5メートル自殺ダイブ”のスーパーフライを敢行した。この伝説のワンシーンが、それから10数年後のマンカインド=フォーリーのクレイジー・バンプのモチーフとなった。

 インターコンチネンタル王座を通算2度獲得し、バックランドのWWE王座に挑戦し、その後はホーガンのライバルとしても活躍したムラコは、メインイベンター・グループの新陳代謝が激しいWWEのなかではかなり息の長いスーパースターだった。

 “マグニフィセントMagnificent(壮大な、堂々たる、華麗な)”という文字どおり壮大なニックネームは、ビンス・マクマホンではなくてビンスの父ビンス・マクマホン・シニアが考案したもので、マイクを持ってのおしゃべりがどうしても苦手という弱点をカバーするために、ムラコのよこにはつねに“キャプテン”ルー・アルバーノ、ミスター・フジといった悪党マネジャーがついていた。

 実力的には超一流だったがプロレスラーとしてはあまり欲のないタイプで、WWE在籍中も1年のうちの3カ月間は必ず完全オフをとり、ホームタウンのホノルルに帰ってサーフィンと日光浴を楽しんでいたという。

 1980年代後半、ビンスはムラコに“ザ・ロック”という新しいキャラクター・ネームを与えた。ムラコの岩石のような筋肉ボディーとハワイの海のイメージをかけ合わせたものだったが、これはヒット商品にはならなかった。もしかりに――if――このニックネームが定着していたとしたら、1990年代後半にザ・ロック(ドゥエイン・ジョンソン)というスーパースターは出現していなかったかもしれないのだ。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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