“架空の人物”ブルータス・ビーフケーキ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第46回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第46回


 ブルータス・ビーフケーキは、ビンス・マクマホンがプロデュースした“実験的キャラクター”だった。ブルータスはジュリアス・シーザーを暗殺した「ブルータス、お前もか」のブルータスで、“ビーフケーキ”とは筋肉隆々の男性のヌードあるいはヌード写真。女性のヌードあるいはヌード写真を意味する“チーズケーキ”の反対語にあたる英語の古典的表現である。

ハルク・ホーガンの“弟分”エド・レスリー

ブルータス・ビーフケーキは、ビンス・マクマホンがプロデュースした“実験的キャラクター”だった。その正体は、ハルク・ホーガンの“弟分”エド・レスリー。ほとんど、どさくさまぎれのような感じでWWEと契約を交わした無名のレスラーだった。(写真はWWEオフィシャル・マガジン表紙より)

 ビーフケーキは、ほとんどどさくさまぎれのような感じでWWEのリングに登場した。本名はエド・レスリー。1957年、フロリダ州タンパ出身で、まだほんの子どものころから近所に住む4歳上の兄貴分、テリー・ボレア(ハルク・ホーガン)の後ろをちょこちょこついて歩いていた。

 中学、高校時代はいつもホーガンのお下がりのジーンズをはき、ホーガンがロックバンドをやっていたころは、ローディーとしてバンドの雑用係になった。ホーガンがウエートトレーニングに熱中するようになるとビーフケーキもウエートトレーニングをはじめ、ホーガンが「プロレスラーになる」といったら、ビーフケーキも「ぼくもやる」といい出した。

 ホーガンは“名伯楽”ヒロ・マツダからレスリングの手ほどきを受け、ホーガンは習いたてのレスリングのベーシックをビーフケーキに教えた。1977年8月、マスクマンのスーパー・デストロイヤーとしてフロリダでデビューしたホーガンは翌年、NWAガルフコースト地区(フロリダ州ペンサコーラ)に転戦。ホーガンはビーフケーキをサーキットに帯同し、ここでビーフケーキもそおっとプロレスラーとしてデビューした。

 ペンサコーラ、アラバマ、南ジョージアではホーガンがテリー・ボールダー、ビーフケーキがエディ・ボールダーを名乗り、テリー&エディのボールダー・ブラザースとして活動した。1980年代前半のアメリカのプロレス専門誌にビーフケーキがホーガンの“弟”として紹介されているのはそのためだ。

 ホーガンがスターリング・ゴールデンに改名するとビーフケーキはディジー・ゴールデンに改名し、ホーガンがハルク・ホーガンに変身するとビーフケーキはディジー・ホーガンに変身した。ディジーDizzy(めまいがする、クラクラする)というニックネームは、ホーガンが考案したものだった。

 WWEと契約(1983年12月)と同時に、ホーガンはビーフケーキをビンスに売り込んだ。ビンスはホーガンの弟分というキャスティングには興味を示さなかったが、架空の人物を演じる“中身”として無名のビーフケーキを起用した。

 いまではゲイであることをカミングアウトするセレブリティーはそれほどめずらしくないが、ホーガンを主役とする勧善懲悪ドラマだった30年まえのWWEではホモセクシャルのヒールというキャラクターは“野心作”といってよかった。ブルータス・ビーフケーキというリングネームをひねり出したのはビンスで、ゲイ人口の多いサンフランシスコを出身地とする設定はホーガンが考えた。

 ビーフケーキはホーガンとおそろいだったブロンドのロングヘアを短くカットし、髪を黒く染めた。編みタイツ系のロングタイツとタンクトップ、ヒザ下までの長いリングブーツはロックバンドのステージ衣装を専門につくっているデザイナーに発注した。ビンスは、ホーガンとビーフケーキをできるだけ遠くにレイアウトした。

 ホーガンとの関係でなにからなにまでトクをしたのはビーフケーキかといえば、そうではなかった。スーパースターとしての非現実的な地位と名声はホーガンを孤独にした。“正義の味方”はどんなときでも行動をともにしてくれるバディーの存在を必要としていた。

 ビーフケーキはビーフケーキというキャラクターを演じながら、プライベートな時間はつねにホーガンのすぐ後ろを歩きつづけた。なんとなく不思議なふたりの友情ストーリーは、21世紀までつづくのだった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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