JYDと書いてジャンクヤード・ドッグ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第48回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第48回


 ジャンクヤード・ドッグは、1980年代のアメリカのレスリング・シーンを代表するアフリカン・アメリカンのスーパースターだった。

JYDことジャンクヤード・ドッグ

JYDことジャンクヤード・ドッグは、1980年代前半のアメリカのレスリング・シーン、とくに南部エリアでは神がかり的な観客動員力をもったアフリカン・アメリカンのスーパースターだった。(写真はWWEオフィシャル・プログラム表紙から)

 ジャンクヤードは廃品投棄場のことで、ドッグはもちろん犬。愛称はJYD。“クズ山の野良犬”と直訳するとやや差別的なニュアンスになってしまいそうなギリギリのラインのネーミングだが、キャラクター的には子どもファンに愛される典型的なベビーフェースで、ディープ・サウスと呼ばれる深南部エリアでは神がかり的な観客動員力を持っていた。

 1953年、ノースカロライナ州シャーロット出身。本名はシルベスター・リッター。フェイヨッテビル州立大時代はフットボールで活躍し、卒業後はNFLグリーンベイ・パッカーズのスプリング・キャンプに参加。しかし、開幕ロースター入りできず、CFL(カナディアン・フットボール・リーグ)に移籍したがヒザの故障でフットボールを断念し、1978年にカナダ・カルガリーでプロレスに転向した。

 デビュー当時のリングネームは“ビッグ・ダディ”リッターで、1980年にルイジアナのMSWA(ミッド・サウス・レスリング・アソシエーション)に転戦後、JYDに改名した。カントリー・シンガー、ジム・クロースの名曲“バッド・バッド・リロイ・ブラウン”のなかの“キングコングよりバッドでジャンクヤード・ドッグより凶暴な”というフレーズがそのままリングネームになった。JYDのキャラクターを考案したのはプロモーターのビル・ワットだった。

 MSWAは1980年代前半、“巨大カルテル”NWAに非加盟の大型独立団体として南部エリアに一大テリトリーを築いていた。もともとはNWAの傘下団体だったが、1979年8月、ワットが先代プロモーターのリロイ・マクガーク(旧NWAトライステート・レスリング)からオクラホマ、ルイジアナ、ミシシッピ、アーカンソーの4州とテキサス州の一部のプロモート権を買収。新団体MSWAとしてリニューアルされた。

 MSWAの不思議なところは、NWAに加盟していない独立団体でありながらダスティ・ローデス、リック・フレアーといったNWA世界ヘビー級王者が年に数回ずつツアーにやって来るという既成事実をこしらえたことだった。世界チャンピオンをコントロールし、そのスケジュールを管理するはずのNWAがすでに組織として形骸化しつつあったということなのかもしれない。

 80年代前半は、プロレスラーが“旅がらす”のようにテリトリーからテリトリーを渡り歩いた最後の時代だった。NWAクロケット・プロ(ノースカロライナ)、NWAフロリダ、NWAジョージア、MSWAあたりまでの南部エリアが大きな“ループ”になっていて、6カ月から1年サイクルで各エリアの登場人物=レスラーの顔ぶれが入れ替わるようになっていた。

 MSWAの本拠地ニューオーリンズは非常にプロレスの人気が高い土地で、JYDは南部の香りがするブルーカラー層出身のピープルズ・チャンピオンを演じた。トレードマークは赤のロングタイツと純白のリングシューズ。入場テーマ曲はクイーンの“アナザー・ワン・バイツ・ザ・ダスト”で、必殺技はきわめてシンプルなヘッドバット=頭突きと“サンプThump”と命名されたパワースラムだった。

 JYDの南部エリアでの観客動員力に目をつけたビンス・マクマホンは、1984年に年俸30万ドル(1ドル=約200円のレートで約6000万円)という当時としては破格のギャランティーでJYDをJYDというキャラクターのままMSWAから引き抜いた。“田舎のプロレス団体”MSWAはJYDの商標と版権、知的所有権などを登録・保有していなかった。

 JYDは、WWEでアニメーション的なキャラクターにつくり変えられ、カートゥーン版のJYDがアニメーション番組“ハルク・ホーガンのロックン・レスリング”(CBS系列)の登場人物となった。

 1998年6月2日、ミシシッピ州フォレストで交通事故で死去。まだ45歳という若さだった。God Bless Him。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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