ホーガンとテリーの“消されたシングルマッチ”――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第49回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第49回


 1986年のWWEは、ハルク・ホーガンとテリー・ファンクの因縁ドラマで幕を開けた。WWE世界ヘビー級王者として3年めを迎えたホーガンはこのとき32歳で、ベテランのテリーは41歳。ちょっと意外な感じがしないではないが、日本では絶対的なベビーフェースのテリーがWWEのリングではヒールを演じていた。

WWEアクション・フィギュア“レジェンド・シリーズ”のテリー・ファンク人形

ホーガンとテリー・ファンクの関係は、どこか不思議な運命の糸で結ばれているようだった。1982年、ふたりは南アフリカ共和国で“歴史から消された”シングルマッチを闘った。(写真はWWEアクション・フィギュア“レジェンド・シリーズ”のテリー・ファンク人形)

 ホーガンとテリーはどこか不思議な運命の糸で結ばれているようだった。ふたりが初めて出逢ったのは、ホーガンがプロレスラーとしてデビューしてから1年後の1978年。プロレスをあきらめかけていたホーガンを大先輩のテリーが説得し、リングに戻る決意をさせた。

 このエピソードはホーガンの自伝本『ハリウッド・ハルク・ホーガン』にもくわしく紹介されているが、本のなかに描かれているフロリダ州タンパの埠頭でのふたりの会話シーンはどちらかといえばファンタジーで、じっさいの対面はタンパではなくペンサコーラでのできごとだったといわれている。

 それから4年後、ホーガン対テリーの初めてのシングルマッチが南アフリカ共和国のサンシティーで実現した(1982年11月13日)。ホーガンを南アフリカ・ツアーにブッキングしたのはテリーで、現地のプロモーターは映画『ロッキー3』に出演していた“あの金髪の大男”をどうしても欲しがった。

 試合結果に関しては諸説がある。ホーガンはフォール勝ちを公言し、テリーは「オレの反則負けだった」と主張した。この南アフリカでの試合から数週間後、ふたりは日本で再会する。ホーガンは新日本プロレスの『第3回MSGタッグ・リーグ戦』、テリーは全日本プロレスの『82世界最強タッグ』にそれぞれ出場のため同時期に東京に滞在していた。

 テリーは、ホーガンが日本のマスコミに南アフリカでの試合のことを話し、「オレのフォール勝ちだった」とコメントしたことに憤慨した。テリーは記者団を先導してホーガンが滞在していた新宿の京王プラザ・ホテルへ乗り込み、マスコミの目のまえで“誤報”を正そうとしたが、ホーガンは会見に応じようとしなかった。テリーは「こんどあいつに会ったら殴る」と怒りをぶちまけたが、リング外の乱闘事件には発展しなかった。

 南アフリカでのホーガン―テリー戦は残念ながら映像には残っていない。また、この試合はサンシティーとボツワナで合計2回、おこなわれたとする説もある。いずれにしても、ホーガンがテリーのブッキングで南アフリカに遠征し、そこでふたりがシングルマッチで対戦したことだけはどうやら事実だった。

 ホーガンは新日本プロレス、テリーは全日本プロレスのドル箱外国人選手だったから、当時の日本の2大メジャー団体の関係を考えるとこのふたりの接触はひじょうに政治的な問題だった。一説によれば、ホーガンはテリーに全日本プロレスへの移籍を約束したが、ホーガンはこのテリーからのオファーをテコに新日本プロレスと折衝し、好条件で年間契約を交わしたとされる。いまとなっては、なにもかもが過去のできごとである。

 ホーガンにとって“出世作”となった映画『ロッキー3』出演は、じつはテリーのアレンジによるものだった。プロレスを題材にした映画『パラダイス・アレイ』(1978年)でシルベスター・スタローンと共演したテリーは、スタローン自身から新作『ロッキー3』に登場させる“ケタ外れに大きいブロンドの筋肉プロレスラー”のブッキングを依頼された。テリーはすぐにホーガンに電話を入れた。

 映画『ロッキー3』が全米で公開されたのは1982年夏で、南アフリカ・ツアーで問題の一戦がおこなわれたのは同年11月。テリーはAWAをサーキット中だったホーガンをなかば強引に南アフリカに連れていった。

 東京での“ニアミス”から3年後、ホーガンとテリーはWWEで再び顔を合わせた。ふたりをとり巻く政治的状況、それぞれの立場は大きく変わっていた。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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