“バトルロイヤル”は本命アンドレが優勝――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第56回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第56回


 日本ではなぜか人気がなくて、アメリカでは“ドル箱カード”としてもてはやされる試合形式の典型がバトルロイヤルである。

写真はWWEオフィシャル・プログラム表紙より

NFLプレーヤー6選手がゲスト出場した20選手出場バトルロイヤル(オーバー・ザ・トップロープ方式)は、大本命アンドレ・ザ・ジャイアントが優勝。最後の最後までリング内に生き残っていたのは、のちに90年代を代表するスーパースターに“大化け”するブレット・ハートだった。(写真はWWEオフィシャル・プログラム表紙より)

 アメリカのプロレスファンの感覚では、バトルロイヤルとはオールスター・キャストが一堂に会すゴージャスなイベントということになる。ちなみにバトルロイヤルBattle Royalという単語はプロレス用語ではなくて、ちゃんと辞書にも載っている英単語で、3人以上がおたがいに闘う大乱闘を意味するほか、大論戦、激論といった知的な闘いとしての定義もある。

 “レッスルマニア2”シカゴ大会(1986年4月7日)の超目玉カードは、“冷蔵庫ペリー”ことウィリアム・ペリー(シカゴ・ベアーズ=当時)をはじめとするNFLプレーヤー6選手がゲスト出場したオープン・インビテーショナル・バトルロイヤルだった。

 同年1月のスーパーボウルでMVPを獲得し、アメリカでもっとも知名度の高いスポーツ・セレブリティーとなったペリーの“プロレス体験”というニュースにアメリカじゅうのマスメディアが飛びついたことはいうまでもない。バトルロイヤルという試合形式は、じつはプロ・フットボール選手たちの“弱点”を隠すための一種のカムフラージュになっていた。

 試合はフォール、ギブアップ、反則、場外カウントによる裁定ではなく、トップロープごしに場外に転落した選手が失格というオーバー・ザ・トップロープ方式でおこなわれた。観客の視線を一身に集めていたのは“冷蔵庫ペリー”ではなく、どこからみてもいちばん大きいアンドレ・ザ・ジャイアントとそのライバルのビッグ・ジョン・スタッドのふたりだった。

 スタッドは長身のビル・フラーリック(アトランタ・ファルコンズ)をオーバー・ザ・トップロープで場外にたたき落とし、つづいて“冷蔵庫ペリー”の超巨体をすくい投げのような体勢でトップロープごしにリング下に落とした。

 “冷蔵庫ペリー”はリング下からスタッドに握手を求めるようなしぐさをみせ、スタッドがこれに応じると、その右手を下からひっぱってスタッドを場外に落とした。ペリーにはペリーのためのメディア向けのワンシーンが用意されていた。

 リング上にはアンドレ、ラス・フランシス(サンフランシスコ・49ナーズ)、ハート・ファウンデーション(ブレット・ハート&ジム・ナイドハート)の4選手が生き残っていた。フランシスの父親エド・フランシスは元プロレスラーで、引退後はハワイでプロモーターとして活躍した人物。フランシス自身もプロ・フットボール選手になる以前、ちょっとだけプロレスをかじったことがあった。

 ブレット・ハートは、この時点ではまだ28歳のタッグ専門の中堅クラスの選手だった。ロングタイツとタンクトップを組み合わせたカルガリー・スタイルのリング・コスチュームはすでにトレードマークになりつつあったが、イメージカラーのピンクは“開発段階”で、この日はライトブルーを基調にしたタイツをはいていた。

 ブレットとナイドハートは、まずふたりがかりで軽量のフランシスを場外に投げ落とした。リング上は、アンドレ対ブレット&ナイドハートのハンディキャップ・マッチ的な展開となった。アンドレのアトミックドロップを食らったナイドハートが、トップロープごしに場外に吹っ飛んでいった。

 アンドレがブレットをボディーリストし、そのままトップロープごしに場外に投げ捨てた。ブレットはプランチャのような格好で宙を舞い、場外のナイドハートの上に落ちていった。バトルロイヤルは“本命”アンドレの優勝でその幕を閉じた。

 ブレット“ヒットマン”ハートが、それから約10年後にWWE史のみならずプロレス史にその名を残すスーパースターのなかのスーパースターに変身することを予想したファン、関係者はこの日、ほとんどいなかった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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