六本木で開催中の摩訶不思議な人形展。そのルーツを、主催者の人形作家・四谷シモン氏の人生からひもとく

「人形」と聞いてなにをイメージするだろうか? 女の子が遊ぶリカちゃん人形、ひな祭りで飾られるひな人形、洋室に置かれているフランス人形など、成人男性には少し遠い存在かもしれない。そんな人形を物心ついたころから71歳にいたる現在まで、毎日作りつづけている男性がいる。人形作家・四谷シモンだ。幼いときに「人形で食べていく」ことを心に決め、25歳で大阪万博に人形を出品、30歳には個展を開催、66歳のときにはとうとうポーランドの芸術団体の招待を受けて展覧会を開催している。今でこそ、四谷シモンによって切り開かれた「創作人形」のジャンルには、何人かの有名な作家がいたり、一定の人形ファンがいたりと小さいながらも市場がある。しかし、初めの一歩を踏み出した四谷シモンの覚悟は相当なものだっただろう。

歌手のニーナ・シモンが好きだったことから「シモン」というあだ名に。「四谷」は住んでいた地名から。

 そんな四谷シモンが主催する「エコール・ド・シモン人形展」が、5月14日から六本木ストライプスペースで開催されている。今年で35回目となる展覧会には、60を超える人形たちが所狭しと並んでいた。人形展といっても、一般的にイメージするような日本人形やフランス人形とはかけ離れた作品がたくさんある。前後真っ二つに割られた人形がそれぞれカラフルな壁に埋まっているもの、数えきれない赤色と黒色のビニル製の物体に覆われている人形、やたらとニヒルな人相のダルマ集団、ガラスケースに生ものといっしょに閉じ込められた骸骨……などなど。個性豊かな人形たちの不思議な展覧会。主催者である人形作家・四谷シモンは語る。

「この展覧会は、僕が原宿でやっている人形教室『エコール・ド・シモン』の生徒たちの発表会です。人形教室をはじめて3年たつと、生徒も上達してきましたから、『じゃあちょっとみんなで発表会やりましょう』っていうのがそもそものきっかけですね。最初の10年ぐらいはまだ類似していたんですね、ぞれぞれ(の人形)が。それから20年ぐらいたったころに、それぞれ、『個の成立』ができてきたんですね。人形ってひとつの小さなジャンルですけども、その世界でもユニークなものを作る人が出てきたんですね」

 今でも教室では、四谷シモンが教えるというよりも、自分自身のイメージが先行するような人形を生徒それぞれが作っているという。さて、冒頭でも説明したとおり今でこそ、「エコール・ド・シモン」や「ピグマリオン人形教室」などの人形教室があり、有名な人形作家が何人もいる。しかし、四谷シモンが教室を始めるまでは、伝統工芸的な日本人形とはちがった「人形創作」というジャンルすら確立されていなかった。四谷シモンが人形の世界に足を踏み入れたきっかけはなんだったのだろう?

「小学校4年生のときに、4コママンガで『学芸会でつけるお面をつくりましょう』というのを見て、そのとおりに、新聞紙とうどん粉でつくったのが最初。それから、いろんな人形を作り続けて、勉強もしなくなって。それで中学卒業の時、たったひとり僕だけ、高校に進学もしないし、就職もしない。学校の先生が心配して、『お前はいったいどうするんだよ?』って。『先生、僕、人形でやっていきます』ということを言っちゃったのね」

 子ども心に、「苦労はするだろうなあ」「飯を食えないようなことだろうなあ」と思いながらも、「いい人形をつくって生きていけたら」と「食えない夢」を持っていたとのこと。それから、四谷シモンは、画家・金子國義、デザイナー・コシノジュンコ、評論家・澁澤龍彦、舞踏家・土方巽と出会ったり、劇作家・唐十郎の紅テントで女形として出演したり、寺山修二の天井桟敷と乱闘をしたりと激動のアングラ文化の渦中に巻き込まれながら人形を作っていく。四谷シモン曰く、「(彼らとの出会いは)運命としか言いようがない。自分の夢の実現のために出会っていった人たち」とのこと。そして、人形教室を始めた33歳のときようやく、「なんとか食べていけるな」と思ったらしい。さまざまな出会いがあっていまの自分があるという四谷シモン。四谷シモンの「食えない夢」への覚悟と様々な人との出会いがあったからこそ、展覧会の人形たちが生まれたと言えるのかもしれない。

 次回は「60年間人形を作り続けている人形作家・四谷シモン氏のハンス・ベルメールとの特別な出会いとは?」を紹介する。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1113756

●エコール・ド・シモン http://www.simon-doll.jp/

nextpage<取材・文/日刊SPA!取材班>

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