「街の匂いもメシの味も何もかも合わない」――46歳のバツイチおじさんはスリランカに来たことを激しく後悔した〈第25話〉
俺「はい、メーターの180ルピーね」
ドライバー「ダメだよ。少し迷ったからこの金額の倍の360ルピーね」
俺「ダメ。180、はい」
ドライバー「360ね」
俺「は? ありえねーだろ。180だよ。メーターの金額は180だろ」
ドライバー「わかりづらい場所にあったから360払え!」
俺「ありえない! 俺180しか出さないよ」
180ルピーをドライバーシートにおいて宿に入ろうとしたら、ドライバーがついてきて俺の肩を掴んできた。
ドライバー「ふざけるな。360払えよ」
俺「手を離せよ! おら!」
手を振り払うと、少しもみ合いになった。
二人で大声で口喧嘩をしていたら、宿のオーナーが出てきた。
そして、ドライバーと宿のオーナーが母国語で何やら話し始めた。
オーナー「君、ここを丸く収めるため360ルピー払ってくれ。スリランカではそんなに高い金額じゃないから」
俺「え? でも……」
このままではオーナーにも喧嘩をふっかけてしまいそうになるほど、俺は熱くなっていた。が、これから泊まる宿のオーナーと喧嘩しても一ミリも得しないので、諦めて360ルピー払うことにした。
俺がお金を払うと「運転手は当たり前だ」というゼスチャーをした。ぶん殴ってやろかと思ったが「ここは異国の初日、きっとこの街にビビってのまれてるから、キレやすくなってるんだろう」と思い、必死に感情を抑えた。
トゥクトゥクが去っていくと、そいつから漂ってきたスパイシーで独特な臭いが鼻に残った。
金額ではなく、ただそいつのやり方に対して、無性に腹が立った。
チェックインを終え、部屋で少しゆっくりしていると、外が暗くなってきた。時計を見ると7時過ぎだ。
晩御飯を食べるため、コロンボのはずれにある住宅街を歩いた。
暗い夜道を恐る恐る歩いたが、なかなかレストランが見つからない。
この夜道が安全なのか危険なのかもわからない。
すれ違う人の顔をじっと見ても、何を考えてるかさっぱりわからない。
そのまま歩いていると、6人組の若い男女がファーストフードっぽいお店に入っていくのが見えた。
「ファーストフードだったら、食べれないことはないだろう。とりあえず入るか。これ以上遅くなると、危険だし」
この店を、記念すべきスリランカの一食めにすることにした。
メニューを見ながら悩んだ末、チキンカレーとパパイヤジュースを選んだ。
今日は移動ばかりでちゃんとした食事は初めてだったので、出されたご飯にかぶりついた。
「わ、まずい!」
米だと思ったら、粉っぽい平麺だった。
タイで食べたチキンカレーの味をイメージしていたので、悪い意味で裏切られた感じがした。どうやらライスでなくコットゥという平麺の料理が間違って出てきたようだ。口直しにパパイヤジュースを飲むと……。
「なんだこれ。全然冷たくない……」
堪えられなくなって「チキンカレーのコットゥをプレーンライスに変えてくれ」と交渉したが、ご飯が切れているらしくダメだった。
結局、スリランカの記念すべき一食目は、完食できぬまま近くのスーパーでスナック菓子とビールを買い、腹を満たすこととなってしまった。
「この街の匂いも、トゥクトゥクドライバーの匂いも、まずいご飯もぬるいジュースの味も、何もかも合わないぞスリランカ。ぶっちゃけ、この国で花嫁を探しても見つかるイメージが全然わかない」
その夜、深夜に高熱が出た。
知恵熱なのか?
旅の疲れなのか?
風邪なのか?
さっぱりわからないまま熱は39度近くまで上がり、3日間治らなかった。
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