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ファミレスで隣の席の会話に聞き耳を立てていたら、大喜利を観覧したような気分になった話【コラムニスト原田まりる】

試合は徐々に斜め上の展開に!

 その後「髪型に合わせたオススメコーデは?」「スタイルが良く見えるコーデの秘訣は?」など読者のニーズを想定した質問をインタビュアーが投げかけるのだが、その度にスタイリスト女性は、大川隆法氏が守護霊インタビューを行う時のように、目を閉じて「う~ん、う~ん」と悩むアクションを挟んで「背の高い女性がショートカットにすると男っぽくみえる場合がある」「膝下の長い日本人は結構珍しい」など一般論のみを呟くのだった。  スタイリスト女性のとんちんかんな受け答えに、インタビュー開始10分ほどで隣のテーブルは不穏な空気が充満していた。このスタイリスト女性、アドリブに弱すぎるのか、意見が固まってないのか、二日酔いなのかなにかわからないが、微妙にずれた答えを繰り出し続けるのだった。  しかし、この会話パターンに私は聞き覚えがあった。そうだ。ふわふわしたこの会話のやりとりは、プロ引退後のボクサーと話している時の感覚にそっくりなのだ。以前、ボクシングジムに通っていた時、彼らと話す機会も多く、その時「さっきミットしたっけ?」「次の月曜休みってもう伝えたっけ?」と何度も確認された会話が蘇る。  だが、おそらくこの女性はボクサーではない……。  どんな質問を投げても「うーん、うーん、そうかもしれない…」と曖昧な返答でかわし続けるスタイリスト女性に対し、インタビュアー女性も徐々に苛立ってきているようであった。私はこのどうにもこうにもならない泥試合と化したマッチを横目に、心の中でスタイリスト女性を応援していたが、試合は終盤に突入。時計を気にしだしたインタビュアー女性が「では最後の質問です、これだけは押さえておきたいアイテムはなんですか」と締めを切り出す。  するとスタイリスト女性は、しばらく悩んだ後こう答えた「それは、黒と白のパンプスですかね…」。  インタビュアーは尋ねる。「何故でしょうか?」。  するとスタイリスト女性「黒と白は…冠婚葬祭につかえるから…」。  ここで試合終了。おしゃれの極意を聞くつもりが、最終的に大喜利を観覧した錯覚に陥った午後のひとときであった。<文/原田まりる>

スタイリストさんモンタージュ。ファッションの奇抜さは内気さを包む鎧なのか

【プロフィール】 85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU 原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/
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私の体を鞭打つ言葉

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