ビンス無罪“ステロイド裁判”エピソード02=ザホリアン医師の証言――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第155回
ザホリアン医師は、アレンタウンとハーシー(いずれもペンシルベニア州)の試合会場に設営される仮設医務室で選手たちにステロイドを販売していたころの様子をくわしく説明した。ステロイドをはじめとする薬物、薬剤はレスラー側が希望する量をそのまま処方し、ザホリアン医師の署名入りの処方箋とともに無地の茶色の紙袋に入れて売られていた。
「それは医療行為でしたか?」
「いいえ、ちがいます」
「レスラーが希望する薬物を、希望する量だけ処方する行為は?」
「医師として正しくない行為でした。医療目的以外、つまりドーピングは倫理的にまちがった行為でした」
オシェー検事の「タイタン・スポーツ社役員のアーノルド・スコーランとジョー・スカルパ(チーフ・ジェイ・ストロンボー)がステロイドを購入したことがありますか」という質問に対し、ザホリアン医師は「はい、1984年から1985年にかけて何度かありました。ご本人たちのものではなく、スコーランさんの息子(ジョージ・スコーラン=元プロレスラー)、ストロンボーさんの息子(マーク・スカルパ=元プロレスラー)のためだったと記憶しています」と答えた。どうやら、この質問は薬物の販売・流通が会社ぐるみの犯行であるというニュアンスを陪審員に示すことを目的とした“誘導尋問”だった。
司法省が立件したステロイドの販売・流通と販売・流通を目的とした共同謀議は、ザホリアン医師がビンス・マクマホンにステロイドを納品し、ビンスがこれをハルク・ホーガンの自宅に発送したとされる1989年4月13日付の宅配便(以下“4・13事件”)と1989年10月24日付の宅配便(以下“10・24事件”)のそれぞれの伝票を物的証拠とした2件だった。
公判開始から3日間のオシェー検事によるザホリアン医師への証人尋問は、共同謀議セオリーを浮かび上がらせるための事件の輪郭に関する質問と答弁のくり返しで、“4・13事件”と“10・24事件”そのものに関する新しい証拠、具体的なデータの提示はなかった。オシェー検事からザホリアン医師への質問はまだまだつづいた――。 (つづく)
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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