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「勇気を振り絞れ俺! ここしかないぞ俺!」――46歳のバツイチおじさんは満天の星空の下で勝負に出ようとした〈第28話〉

もしかして、もしかしてだけど・・・。 俺は固唾をのんでリーの回答を待った。 リー「いえ、別々の部屋でお願いします」 リーはきっぱりしていた。 竹を割ったような、見事なきっぱりだ。 2人は山の上の階段を登り、景色が一望できる隣り合わせのロッジに泊まった。 荷物を部屋に置くと、部屋の外の椅子に座り、村が一望できる景色を眺めた。すると、リーも隣の椅子に座った。 リー「わー、綺麗~。素敵なところで良かったですね」 俺「うん。いいね~。紅茶畑が一望できて落ち着けるね」 リー「ごっつさん、バイク借りてこの辺ツーリンングしません?」 俺「俺、原チャリの免許しか持ってないけど」 リー「大丈夫。私が免許持ってるから。ごっつさん、私の後ろね」 俺はリーのバイクの後ろにまたがった。 一瞬、リーの腰に手を回しかけたが、心の中の紳士がその手を止めた。 俺は座席の後ろのバーに捕まり、ドキドキを押し殺した。 リー「飛ばすよ! ちゃんと捕まってね」 そう言うとリーは初めての道にも関わらずバイクをぶっ飛ばした。 紅茶畑に覆われた緑の村に太陽の光が降り注がれると、緑の絵の具と黄色の絵の具を水に混ぜたようにいろんな緑に変貌した。頬にぶつかる澄み渡った空気が気持ち良かった。 リー「このまま、山に登りません? リトルアダムスパークって一時間くらいで登れる山があるんです」 今日着いたのに、そのまま山登りか……。若いってスゴい。おじさん、もうヘトヘトだ……。 しかし、リーにおじさんだと思われたくはない。 年を取っても体力は変わらないぜ。そう思われたい一心で一緒に山に登った。 そのまま一時間ほどでリトルアダムスパークを制覇。 リーと出会って3日目、すでに2つ目の山だ。 もう、合宿のようなデートだ。 高校バスケ部時代の霊山練習を思い出した。 「さすが地元の100メートル記録保持者。デートがスパルタ式だ!」

山登りが得意なリー。運動神経抜群

やがて日が暮れ、スパルタ式デートも終わり2人で宿に帰った。 シャワーを浴びた後、2人でレストランに向かうことに。 スリランカ料理の店に入り、2人でスリランカカレーを注文した。 俺「覚えてる? 初めて会った日、2人でスリランカ料理のレストラン行ったよね」 リー「うん、覚えてるよ」 俺「その時、チキンヌードルの野菜、全部隅っこに寄せたよね」 リー「えー! なんでそんな変なとこ覚えてるの~」 リーはクシャリと笑った。その時だった。 俺「あ、電気が消えた」 どうやら停電のようだ。 お店だけでなく村全体が停電のようで、真っ暗闇になった。 店員「お待たせしました」 キャンドルを持った店員が2人分のスリランカカレーを持ってきた。 俺「リー、せっかくだから、暗闇の中、右手でカレー食べない?」 リー「それ、面白いアイディア!」 俺「感覚が研ぎ澄まされてるから、よりおいしく感じると思うよ」 2人は暗闇の中、覚えたての右手使いでカレーを食べた。 特別な夜に秘密めいた食事をしているような感覚に陥り、この暗闇カレーは異様な盛り上がりを見せた。 ふたりの愛の逃避行は、徐々にゴールに近づいている。 そう思わずにはいられない展開だった。 ご飯を食べると、スマホのライトを頼りに真っ暗闇のゲストハウスに戻った。 部屋に戻りベッドに横たわったが、真っ暗闇でやることがない。 もちろんWi-Fiも使えない。 仕方がないので部屋の外の椅子に座り、ウォッカを飲むことにした。すると――。
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食事に続き、真っ暗闇の中…
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