ライフ

「勇気を振り絞れ俺! ここしかないぞ俺!」――46歳のバツイチおじさんは満天の星空の下で勝負に出ようとした〈第28話〉

突然、斜め後ろから中国人カップルがリーに話しかけてきた。 リーは目を覚まし、俺の肩から離れると、中国語で彼らと楽しそうに喋り始めた。 「いや、どんなタイミングで話しかけてきてんだよ!」 俺は心の中で怒りを押し殺しながら、行方を見守った。 リーは俺に気づくと、彼らが何を言っているのか英語で通訳してくれた。 リー「ヒッカドゥアってとこ、綺麗なビーチがあって、世界中のサーファーが集まってくるみたいよ」 ふーん、そうかそうか……。 いやいや、たしかに有益な旅情報かもしれないけど、寝てるリーを起こしてまで言うほどのことか? 愛の逃避行に水を差してまで伝えたかったことなのか!? それにしても中国人のネットワークはすごい。彼らはどこにでもいる。そして、絶えずスマートフォンで情報交換している。グーグルにアクセスできなくても、中国語だけでそれなりに正確な情報をゲットしているようだ。 また、旅をしている中国人のほとんどが英語を話せる。諜報力という意味でも中国が今、世界でぐんぐんと伸びてきているのを肌で感じた。 その諜報力を恐れてか、同胞に見られるのが恥ずかしいからか、その後リーは俺の肩に頭をくっつけて寝ることはなかった。 夜10時近く、ヒッカドゥアビーチに到着した。 ヒッカドゥアビーチは少し洗練されていて、お洒落なレストランやサーフショップが海沿いに並んでいた。 2人は海沿いの一本道を歩き、ゲストハウスを見つけた。 今宵も男と女が同じゲストハウスに泊まる。 恒例の「もしかしてだけどタイム」だ。 俺「あの、部屋空いてますか?」 オーナー「2人で泊まるの? 一緒の部屋?」 俺「……」 もしかして、もしかしてだけど……。 俺はまた固唾をのんでリーの返事を待った。 リー「別々の部屋でお願いします」 ……まぁ、そうだよな。 きっぱりであっさりしてるリーが、突然同じ部屋を選ぶわけないもんな。 そうかそうか……。 リー「だけど、隣の合わせの部屋になりますか?」 え? えええっ!? オーナー「隣同士の部屋がいいの?」 リー「はい」 おーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! リー、君は何を考えてるんだ? 君はいったい、このおじさんをどうしたいんだ? どこまでおじさんの心をもてあそぶつもりなんだい? 嗚呼、リー。 今すぐ、君のすべてを知りたい。 宿にチェックインし、シャワーを浴びた後、2人で晩御飯を食べに海辺のレストランに向かった。 着席し、おいしそうなシーフードとビールを頼むと――。 リー「私も飲もうかな~」 俺「え? リーってお酒飲めるの?」 リー「少しだけなら」 飲めないって言ったのに、飲めるんだ……。 俺に心を開いてきた証拠かな? リーはトロピカルカクテルを頼んだ。女の子っぽくて可愛い。 長いバス旅の後のお酒だったので、二人はあっという間にほろ酔い気分になり、いい感じに盛り上がった。 俺「ティンティンから逃げてきて良かったね」 リー「ふふ。でもティンティンに悪いわ」 俺「確かにそうだね」 リーはくすくすと笑った。 そして俺の目をじっと見つめて、こう言った。 リー「……でも、2人きりの旅になってよかった」 もうロマンティックが止まらない。 恋の炎も止まらない。 今、停電になっても、この恋の炎で灯りをともしてやる。 そんな思いを胸に秘め、俺は酒を飲み続けた。 ヒッカドゥアビーチ初日、深夜12時近くまで海辺のレストランで二人の宴は続いた。

スリランカ・ヒッカドゥアビーチでお酒をたしなむリー

次の日も、海辺のレストランで一緒に朝昼晩と食べ、のんびりとした1日を過ごした。 この日は、2人で夜の浜辺に行き、星を見ながら語り合った。 そして、何もないまま隣あわせの部屋に帰った。 俺は、独り部屋のベッドに横たわり、リーのことを考えた。 「……このままだと、ただの仲のいいお友達だよな」 明後日の早朝には、リーは中国に帰ってしまう。 「お別れまでになんとかしないと」 ただのお友達では満足できないほど、俺は彼女に惹かれていた。 「なんだ? この大きな声??」 ふと気づくと、隣の部屋から大きな女性の泣き声が聞こえてきた。 間違いなくリーの声だ。 どうやら誰かと話してるようだ。 心配になり部屋のドアを開けた。 確かにリーの泣き声だ。 数分後、リーの部屋のドアが開き、彼女と目が合った。 リーの目には涙が溜まっていた。
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「大丈夫?」
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