「勇気を振り絞れ俺! ここしかないぞ俺!」――46歳のバツイチおじさんは満天の星空の下で勝負に出ようとした〈第28話〉
ヒッカドゥアビーチ全体の大きな停電だった。
街全体から明かりが消え、光は頭上に瞬く星空だけだった。
リーと出会って数日で2回目の停電。
神様が悪戯しているのか?
二人は静かに星空を見上げた。
リー「星、キレイだね」
俺「うん」
沈黙が流れた。
俺の切ないこの思いも、どこかに流してくれればいいのに。
リー「……ごっつさん」
俺「ん?」
リー「あのね……。私、ごっつさんに会えて本当に良かった」
俺「俺もだよ」
リー「ありがとう」
俺「こちらこそ、ありがとう」
その後、しばらくの間、二人は無言で星空を眺め続けた。
リー「……」
俺「……」
チャンスだ。
そっと肩を抱き寄せキスさえすれば、リーの気持ちが変わるかもしれない。
これがラストチャンスだ!
勇気を振り絞れ俺!
ここしかないぞ俺!
俺「リー、明日の朝早いんでしょ?」
バカ!
何を言ってるんだ俺!
リー「うん」
俺「そろそろ寝たほうがいいかも」
なぜだ? なぜなんだ俺?
なぜ心と真逆のセリフを言ってしまう?
リー「そうだね」
リーは立ち上がった。
そして、俺に手を差し出し握手を求めた。
リー「ありがとう」
俺は彼女の手を握り返した。
俺「おやすみ」
リー「おやすみなさい」
そして、彼女は自分の部屋に帰って行った。
一人になった俺は夜空に輝く星を見上げた。
「好きな人の前で真逆のこと言うなんて、小学生みたい…もう46歳なのに…」
本当は触りたかった。
本当は抱きしめたかった。
本当はキスしたかった。
だが、ついついカッコつけてしまった。
こんなんじゃ花嫁探しなんてできるわけがない。
俺は自己嫌悪に陥り、ベッドに潜りこんだ。
翌朝5時、二人は海辺を無言で散歩した。
最後の時間も空しく流れるだけだった。
その後、リーはバックパックを背負い、トゥクトゥクに乗った。
リー「ごっつさん、さよなら」
こうして彼女は中国の彼氏の元に帰って行ってしまった。
俺はトゥクトゥクが見えなくなるまで手を振り続けた。
その時、体の異変に気づいた。
「息苦しい……。なんかクラクラする」
リーと別れて気が抜け、疲れがどっと出てしまったようだ。
考えてみれば、リーと旅した3日間で二つも山に登った。
重いバックパックを持って走り回ったりもした。
年甲斐もなく、完全に無茶をしまくっていた。
気づくと38度の熱が出ていた。
気力、体力ともにHPは底に近づいていた。
それから孤独に3日間病気と闘った。
4日目の朝、少し熱が下がった。
パソコンを開くと、エッラで会う約束をしていた国連で働く才女ギチからフェイスブックにメッセージが入っていた。
ギチ【え? ごっつ、ヒッカドゥアビーチにいるの?】
俺【うん。気分が変わって】
ギチ【信じられない。エッラで連絡してくれなかったんだ】
俺【ごめん】
ギチ【バイバイ】
それをきっかけにギチとは連絡が途絶えた。
そりゃそうだよなぁ……。
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