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五輪柔道の「無差別級廃止は欧米の外圧」はウソ ヘーシンクに勝てない日本が階級制を推進した!?

日本の階級制提案の真意はヘーシンクに勝てないから!?

 実は嘉納履正講道館館長(IJF会長)は1960年5月にIOCなどに64年東京五輪での柔道競技採用の請願書を送り、組織委員会が実施の方針を示したことを受け、「柔道の試合は本質的にいって体重別を設けず無差別で行うのが本則と信じているが、(中略)オリンピックについては、広く弱小国からも参加できること、正式種目として各国委員の賛成を得ることなどの点から、体重別を採用しても止むを得ないのではないか」(雑誌柔道 1960年8月号)と消極的な理由ながらも階級制導入を示唆する発言をしています。  しかし日本が翌61年12月のパリIJF総会で階級制実施を提案した本音は「オランダの強豪アントン・ヘーシンクに日本が勝てないから」に他ならないでしょう。東京五輪の柔道を体重無差別で実施すると、金メダルはヘーシンクに持っていかれ、日本柔道界は金メダルゼロで面目丸潰れになります。階級制であれば、少なくとも重量級以外の残りの階級は金メダル獲得が計算できるからです。2010年にヘーシンクが亡くなった際の海外の追悼記事(米誌レスリング・オブザーバ 2010年9月8日号)に、「日本はヘーシンクに勝てないから階級制を主張した」とする記事があり、私の推測はあながち外れてはいないでしょう。  なぜヘーシンクに勝てないと断言するのかには根拠があります。実際にこのパリIJF総会直後に当地で行われた第3回世界選手権ではヘーシンクは日本人3選手(神永昭夫、古賀武、曽根康治)を連破して圧勝しているのです。

「無差別を含まない」ことの姑息な意図

 では、日本の提示した「無差別を含まない」3~4階級案の真意は何でしょう。日本案を決めた競技委員会は竹村茂孝委員長以下11名の委員からなる密室会議であり、議事録は残されておらず真相は藪の中ですが、可能な限り推測してみます。  そもそも「体重無差別こそ柔よく剛を制す柔道の本質」と言い続けてきた日本が、「無差別を含む」階級制を主張するならともかく、「無差別を含まない」階級制を提案したというのは全く不可解です。「無差別を含む」体重別というのは当時のヨーロッパ選手権などで既に国際的に馴染みのある試合方式ですし、日本がそれを知らなかったということはあり得ません。日本が体重無差別の権威を維持したいのなら、この「無差別を含む」体重別を主張すれば丸く収まったはずなのです。  日本が「無差別を含まない」階級制を提案したのは、極めて姑息な手段だと思います。最強を決める象徴的な階級である無差別級を設けると、おそらくヘーシンクにその王座を奪われることになりますが、無差別級さえ作らなければ、ヘーシンクは3つ(または4つ)の階級の内の1階級である重量級王者ということになります。そうすれば「3分の1(4分の1)のチャンピオン」という格付けができるので、真の王者ではないと主張できると踏んだのでしょう。子供だましのような詭弁ですが、当時の無差別級はそれほど別格の権威を持っていましたので、さもありなんです。  さらにはヘーシンクが重量級と無差別級の2階級を制することも日本は恐れたと思います。そうなってしまえば日本のプライドはズタズタです。この「無差別を含まない」3~4階級案というのは、一言で言うと、ヘーシンク対策で一時逃れにとりつくろって間に合わせるための弥縫策(びほうさく)ということなのです。  ヘーシンクはビジネスで道場経営をするプロ選手と見做されており、東京五輪の柔道競技に出場を認められるかかどうかは微妙な状況でした。そのため当時は仮に東京五輪に出れたとしても「東京五輪後に引退」という見方が圧倒的でしたので、日本の首脳陣にはヘーシンク引退までの弥縫策で十分という計算があったのではないかと思います。
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無差別級を不要と言った日本が急に無差別級の尊重発言
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