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100人以上の赤ん坊が殺された「寿産院事件」…“母子の悲劇”は現代も繰り返されている【大量殺人事件の系譜】

預けた親は戦時下の貧しい女性たち

 預けた親たちは、戦争未亡人や、生活に窮し仕方なく夜の務めに出る女性などがほとんどだったという。当時、東京だけでも年間に産院が100軒以上も増加していたというから、この事件は氷山の一角かもしれない。まさに、そんな時代に生まれてきてしまった乳児たちの悲劇。食糧を与えられない幼い命たちは泣く力もなく、無言の抗議すらできなかった。筆舌に尽くせぬとは、こうしたことをいうのであろう。短い生を終えた薄命の子らは、骨になった後、産院の押入れや米びつの中に無造作に入れられていた。残酷というほかはない。  5年間も子どもをダシにしていた院長夫婦は、それぞれ懲役4年と2年の判決が、東京高裁で確定している。被害者の総数は、裁判でも明らかにすることができなかった。推定で85人から169人の間とされたが、それだけ杜撰な管理体制だったということであり、人を人とも思わない所業であった。子どもを殺害する悲劇は、その後も繰り返されてきたが、その残忍さと動機、被害者の数などの面からケタ外れの犯罪だった。  ただ、現代でも後を絶たない子どもへの虐待を、どう考えればいいのだろう。混乱の当時と比べ、現在はカネも物も豊富になったはずであるにもかかわらず、子供が標的にされることが多い。  そうしたことへの対策として、2006年から「赤ちゃんポスト」の運営が始まっている。これは、様々な事情から育てることができない赤ちゃんを、匿名で預けることができるシステム。日本では唯一、熊本県の病院に設置されている。子どもの殺害や虐待、育児放棄を防ぐことができるとされ、実績をあげている。  そして2017年度にも、乳児の虐待死を防ぐため、厚生労働省は望まない妊娠で未婚や貧困に悩む妊婦の支援事業を始める。厚労省によると、無理心中以外の虐待で亡くなった18歳未満の子どもは2003~13年度で計582人。0歳児が256人(44%)と半数近い。そのうち生後24時間以内は98人で、加害者の9割は実母。死因は絞殺以外の窒息が37.8%、出産後の放置が15.3%、絞殺が6.1%だ。  何ら罪のない子が、大人の勝手な都合だけで命を落とす。生まれてきた権利が、他者の事情だけで勝手に奪われる。あってはならないことだが、現実にはなくなっていない。今も昔も、心だけは豊かになっていないのだろうか。 <取材・文/青柳雄介>
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