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熊本城の再建が始まった今、復興途上の熊本地震と日本の危機管理を考える

天災は忘れたころにやってくる

 地球物理学者の寺田寅彦は「天災(災害)は忘れたころにやってくる」という言葉を残しているが、5年前の東日本大震災がまだ記憶に新しいなか、熊本地震は「天災は忘れる前にやってくる」ということを、日本人に認識させる地震となったことだけは間違いないだろう。  熊本で地震が起きたことにより、日本中どこにいても被災する地震に遭う可能性があるという覚悟を日本人一人ひとりが持つべきである。  災害が起きることは人間の力では防ぐことができないが、その後の対応を間違えると「天災」は「人災」となり、被害はさらに拡大する。被災者にもさらなる苦痛を与え、震災関連死で亡くなる人が必ず出るが、熊本地震でも同じことが繰り返されたことは非常に残念である。

耐震基準を満たした建物でも被害

 熊本地震では、私の熊本の実家も被害を受けた。瓦が落ち、屋根にブルーシートを被せて雨風を防いだ。熊本の人で、家が壊れたり、避難するような地震が起きることを想定していた人はほとんどいないだろう。  兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、死者・行方不明者が6437人を数えたが、そのうち建物の倒壊や家具の転倒による圧死・窒息死で約8割の人が亡くなった。  熊本地震における熊本県内で全半壊した建物は1万5000棟を超える。阪神・淡路大震災と同様に、地震による直接的な犠牲者やケガ人の多くが、倒壊した建物や家具の下敷きとなった。  熊本地震で大きな被害を受けた益城町では、耐震基準が強化された平成12 (2000)年以降に建設された木造住宅のうち、全壊が51棟にのぼる。熊本市内の新耐震基準で建設されたマンションなどでも全半壊した建物があった。完成時には震度7にも耐えるように建設されていても、築年数が経つにつれて強度が低下した可能性もある。

耐震基準の見直しと個人ですぐにできること

 建物管理のコストが少々高くなっても、定期的な検査や診断、早め早めの補修・修繕をおこなう必要性があることを熊本地震から私たちは学ぶことができた。  だが、続けて2回も震度7の地震が起きることを想定して建設された建物はほとんどなく、今後は「建物強度」の基準についても見直しが必要になってくるだろう。  地震から自分の命を守るためには、建物の耐震化とあわせて、家の中の家具の転倒防止対策は欠かせない。会社などのオフィスなどでは、複写機(コピー機)なども地震のときは人間に凶器となって襲いかかってくる。オフィスの什器や棚などの固定も絶対に必要だ。  ところが、熊本では大きな地震は起きないという意識から、家の中の家具の転倒防止対策や棚の固定がされていなかったことが明らかになった。  阪神・淡路大震災の教訓がまったく活かされていなかったのは非常に残念だ。
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災害拠点となるべき施設も被害
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日本の命運 歴史に学ぶ40の危機管理

日本史の40の事例が示す、危機を乗り越えるための教訓

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