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これまでの「キャリアを捨てる」勇気――東大卒、元マッキンゼーのお笑い芸人・石井てる美

【週刊SPA!連載】 ★週刊チキーーダ! 飯田泰之・荻上チキのヤバい研究報告書 東京大学に現役で入学。在学中はアジア開発銀行でインターンシップを経験し、“記念受験”したマッキンゼーに入社……と、絵に描いたようなエリート街道を進みながら、お笑い芸人の道へ。異色の経歴を持つ石井てる美さんに話を聞いた。
石井てる美

石井てる美氏

飯田泰之(以下、飯田):今の仕事に不満なんだけど、人間関係を含めて、これまで築いてきたものが捨てられずストレスフルな現状に甘んじる……ほとんどの勤め人に共通する行動方式です。そこで今回はこれまでの経歴や積み重ねを「捨てる」方法について伺えればと。 石井てる美(以下、石井):人間脳の脳って、よくも悪くも現状維持をしようとするらしいですね。昨日と同じ今日が続くほうが人間の本能として楽とかで。 飯田:東大を出てマッキンゼーに勤めて……、そこまで投下した努力を捨てるのって勇気がいったと思うんですね。登りきった山から別の山へ移るのって、また底へ下りなくてはいけないわけですから。辞めるとなったとき、「もったいない」って言われたでしょう。 石井:言われましたね。「大丈夫?」はもっと言われました(笑)。私もゆるい山だったら下りられなかったような気がします。 飯田:マッキンゼーはやはり、緩やかな山ではなかった……ということですか。 石井:「辞めるなんてもったいない」「いればいいじゃん」で居続けられる状態ではなかったんです。これまでの人生、「頑張ればなんとかなる」と思って、実際、なんとかなってきたんですが、マッキンゼーでは、どんなに頑張っても“できない”んですよ。最後はクライアント先常駐で外国人上司と2人、日本語でもわからない内容を英語でやりとりして。食事もほとんど喉を通らず、「乗ってるタクシーが事故に遭えばいい」とまで考えるようになっていましたから。 飯田:“学歴エリート”って、「頑張ればなんとかなる」状態で生きてきた人がほとんどです。僕もそうですし。 石井:私は決して頭がキレるわけじゃないんですよね。ただ、マジメに授業に出て、リポートを出して……と、目の前のことを愚直にやってきたタイプなので。 飯田:だからこそ、「頑張ってもなんとかなる」を超えた状態になると、ひどく混乱してしまうのはわかります。 石井:おまけに、そんな状態になってもまだ、「失敗してはいけない」という思いにもとらわれてしまっていた。失敗なんて誰でもするし、大切なのは、失敗しても頭を切り替えてすぐに前に進むこと。それなのに、変なプライドから「完璧であらねば」という思いに縛られて。辞めるという発想にならなかったのも、「マッキンゼーにも3年はいないと格好がつかない」という思いがあったんだと思います。 飯田:褒められるとかうらやましがられるステータスを、とりあえず目指すというのはわかるなぁ。その一方で、自分の限界を知り、それを超えすぎたことをしても楽しくないっていうことに気づくのは重要かもしれませんね。 石井:「これはもう無理!」という状態になったら、思いきって切り捨てる勇気、決断は大事なのかと。例えば、家の中に1000万円の札束があって、火事になったときに、「なんで1000万取りに戻らなかったの? もったいない!」とは言わないですよね。決断って、一つの道を選ぶことでもありますが、同時に別の何かをあきらめることでもありますよね。「死んだほうが楽」っていうところまでいって、ようやく、私が人生で本当に失いたくないものは家族と友達で、キャリアなんてそんなたいしたことじゃないと気づけたんです。
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