プロレス素人だったライターの記事はなぜ炎上したのか【最強レスラー数珠つなぎ vol.1 佐藤光留】

 1年8か月前、プロレスのプの字も知らない状態でプロレスの記事を書いた。「プロレスはショー」「最強より最高」。女子SPA!掲載『「いい男に抱かれたい」願望が全開に!? “プロレス女子”急増のワケ』がTwitterで炎上した。騒動の発端は、とあるレスラーのツイート。「書いた人間を絶対に許さない」――。家で一人、震え上がった。私はプロレスラーに殺されるんだ……。本気でそう思った。

 結局、私はだれに殺されることもなく、プロレスにのめり込み、記事を書き続け、今回新たに連載をスタートすることになった。タイトルは「最強レスラー数珠つなぎ」。毎回のインタビューの最後に、自分以外で最強だと思うレスラーを指名してもらい、次はそのレスラーにインタビューをする。

 1人目のレスラーは、私自身が指名することにした。パンクラスMISSION所属・佐藤光留。件の記事に噛みついてきた人だ。今回の連載タイトルに“最強”という言葉を使うことにしたのは、「最強より最高」というフレーズに佐藤が怒りを露わにした。そのことが、私の中でずっと引っ掛かっているからだ。強さとは一体なんなのか。この連載を通して探っていきたい。

【vol.1 佐藤光留】

――その節は気分を害してしまい、大変申し訳ありませんでした。改めて、なぜ佐藤選手があの記事に憤りを感じたのか、教えていただけますでしょうか。

佐藤光留(以下、佐藤):女性がビジュアルから入ったり、「試合が面白いければどっちが強いかなんて関係ない」っていう見方をしてプロレスに携わってくるのは、全然かまやしないんですよ。ただ、メディアが紹介するときに、「いまは強さなんてそんなに関係ないんだよ」みたいなことを言われると、やっているほうからしては、その生き死にで生活しているんだっていう話です。僕は保育園の卒園文集に「プロレスラーになる」と書いたので。それ以外の人生を送ってきていないですから。

 物書きのかたの場合だと、「誤字脱字を見つけるのがブームなんだよ」と言われるのと一緒です。いや、そこじゃねえじゃん、っていう。文章の面白い面白くないで生きているのに、誤字脱字とか、「挿し絵がいいから、いまは小説が読みやすいよ。どうぞ読んでください」って紹介されたら、怒るでしょ? いろんなお仕事があると思うんですけど、声を上げずにはいられなかったんです。

――私もあれからいろいろな団体を見るようになって、佐藤選手が怒った理由がなんとなく分かるようになりました。

佐藤:いろいろな団体って言っても、田中タイムは見てないですよね? 僕がオファーを受けて行ってみたら、観客が12人だったんですけど。ワンマッチ興行で、「佐藤光留vs田中」の試合しかないんですよ。「17時集合、18時に完全撤収」っていう(笑)。さすがにワンマッチじゃ人が集まらないと思ったのか、試合の前に「よしえつねおのワンマンショー」があって、だれ一人笑っていない。そういうマニアックな興行を好むというのも、いまのプロレスの価値観の一つですし、棚橋オカダを両国で観るというのも価値観の一つです。

 それを否定する気はないんです。試合の面白さを追い求めるというのも、楽ではない。ただ、傷つかないですよね、選手自身が。負けても「面白かった」「いい試合だった」と言われれば、肯定されちゃうんです。それはプロレスにあっちゃダメだろと思うんですよ。チケットを買ってくれる人は、なんらかに勝って、5千円、1万円を手に入れて来てくれているのに、選手自身が面白かったからと言い訳して、傷つかずにのうのうとプロレスをしているのはちょっと違うんじゃないかなと。プロレスラーという人種として、命がけで業界を作ってくれた人たちに礼がなさ過ぎるんじゃないかと思います。

――あの記事の中で、「最強より最高」と書いたことが一番ダメだったのでしょうか。

佐藤:ダメというか、導火線に火をつけた文ですよね。けど、そういう価値観がなければ、いまのプロレスブームは訪れなかったと思うんですよ。だけど、こっちがプロレスの面白さを伝えたいのをすっ飛ばして、食べやすいもの、飲み込みやすいものを与えて、本当に意味があるものを見せていないんじゃないかという違和感はずっとあるんです。でもそれが売れていることは事実だし、そこは肯定しなければいけない。僕なんかは逆に飲み込まなければいけない部分です。その間で揺れ動いている選手は多いと思いますよ。

 例えば僕がやっているハードヒットという興行に来てくれた選手で、「いまのプロレスは違いますよね、佐藤さん! やっぱハードヒットみたいに、強いか弱いかだけでいいんすよ!」という人もいたけど、その人たちがプロレスラーとして食えているかって言ったら、食えていない人もいたし。飲み込めていないけど、年間200試合くらいやっている僕みたいな奴もいるし。

次ページ全身から汗が止まらなかった“全試合グラップリングルール”興行

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