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プロレス素人だったライターの記事はなぜ炎上したのか【最強レスラー数珠つなぎ vol.1 佐藤光留】

――パンクラスに入門したのはなぜですか。 佐藤:元々は嫌いだったんですよ。UWF系が嫌いだったんです。岡山県出身なので、プロレスの情報って『週刊プロレス』でしか手に入らないんですよ。生で観たのは、新日本、全日本、全日本女子プロレス、FMWだけでした。たまに『週刊プロレス』でパンクラスを見ると、みんな同じ格好をしているし、蹴ったり殴ったり、関節技しかしていないし。VHSを借りてきても、よく分かんないんですよ。途中でキックボクシングをやるし、シーンとしてるし。眠くなっちゃう。それに比べたら、大仁田厚が電流爆破をやったり、グレート・ムタが霧を噴いたりするほうが好きでした。  中学を卒業するときに進路希望を書かなきゃいけなくて、僕、生徒会長だったんですけど、普通、生徒会長って第一志望に県立高校を書くんです。でも僕、FMWって書いたんですよ。大仁田厚が二回目の引退をするっていうから、僕が跡を継ぎたいと思って。そしたらすぐ親呼び出しですよ。先生が「佐藤くんが第一志望にFMWって書いてるんです」って言ったら、うちの母親が「そう、私はね、全日本プロレスに行って小橋建太になってほしいの」って言ったんです(笑)。で、この家族ダメだと思われて、FMWに書類を出しました。  でも落ちて、しょうがないからレスリング部のある高校に行きました。先輩に「佐藤はどこの団体が好きなんだ?」と聞かれて、「僕はFMWが好きです」って答えたら、「お前はまだ分かってない」と言われてパンクラスを見せられたんです。最初はなにが面白いか分からなかったんですけど、実際にレスリングをやるにつれて、面白さが分かってきました。  ある日、サムライプロジェクトっていうインディ団体が岡山に来たので観に行ったんです。第一試合に、いまのミノワマンがアマチュアで出ていて、初めて生で観るUWF系の人って、めちゃめちゃカッコいいと思って。ミノワマンがパンクラスに入ったので、それで僕もパンクラスに入ろうと思ったんです。  そしたら一回落ちて。二回目に受けに行ったら、船木(誠勝)さんと鈴木(みのる)さんがいて、船木さんがひと言、「俺、あいつの目が嫌い」って言ったらしいんですよ(笑)。鈴木さんが半笑いで、「一回うちで入門試験を見てるから、うちで引き取りますよ」って言って引き取ってくれたんです。なので、鈴木さんとの縁は完全に運です。これでもし、船木さんが「あいつはいい」って言っていたら、僕、船木さんの弟子ですもん。そしたら僕いま、プロレスやってないですから。 ――師匠がいないレスラーも多いですよね。師匠と弟子の関係とはどういったものなのでしょうか? 佐藤:昔のプロレスは大体あったんですけどね。鈴木さんがインタビューで言っていたことなんですけど、「18、19で道場に入ってきた子供がこれから世に出ていくときに、喋り方が悪い、挨拶ができない、礼儀がなってない。どこでこいつら社会人になったんだって言ったら、パンクラスになってしまう。だから、親と変わらないですよ、僕らは」と。ああ、だから厳しいんだって思いました。僕がプロレスラーとして、いま話すことであったり、生活のすべては、鈴木さんから教わったか盗んだことです。 ――どんなことを教わったんですか? 佐藤:もう全部ですよ。電話のかけ方から、言葉遣いから、服装からなにから。こうしろっていうんじゃないんです。「俺は意味があってこういうことをしてるんだ」っていう。「靴を履いて会場に入れ」って、めちゃめちゃ怒られたことがあるんです。夏だったらビーチサンダルを履くじゃないですか。でもプロレスラーが靴を履かずに会場入りするなんて、単純にカッコ悪いだろと。それ以来、僕は必ず靴に履き替えて会場入りするようになりました。何年か前の『週刊プロレス』で、普通にビーサンで会場入りする鈴木軍の鈴木さんを見ましたけど(笑)。  僕の周りにいるレスラーはみんな、上に憧れて、魔法なのか呪縛なのかが解けずに伝えていこうとしている人ばっかりですね。自分の好きなことだけやれればいいや、という人たちではないです。「プロレスラーがグリーン車以外、乗るなよ」っていう人もいます。あんた、めちゃめちゃ金ないやんと思いますけど(笑)。アントニオ猪木が、ジャイアント馬場が、自由席に乗らないのと一緒だよと。僕、いま全日本アジアタッグのベルトを持っていて、ついこの間まで世界ジュニアのベルトを持っていたんですけど。自分の生活の一つ一つに、「世界ジュニアのベルトを持っている奴が、こんなことをしてちゃダメだ」というのがありました。  いまプロレスラーとして生活させてもらって、こうして取材されて、街に出ればプロレスラーとして声をかけられてっていう人間なのに、プロレスラーとして以外に投資をする意味をあんまり感じないんです。儲かったお金は全部、2台目の車の頭金にしています。若者が車から離れていく時代に、中年のプロレスラーが車にひっつくという(笑)。 ――ちなみに、どの車に乗りたいんですか? 佐藤:86です。トヨタのスポーツカー。今日は(全日本プロレス)品川プリンスホテルだから、お客さんも同じ駐車場に入るんですよ。一緒の駐車場に出るときに、銀色の軽自動車で出ていくのか、それともベンツで出ていくのかっていうことです。プロレスラーは見られる職業なんですよ。こんな時代だからこそ、プロレスラーはそういう人種じゃないといけないと思うんです。40超えたらGTRですよ。1000万くらいします(笑)。
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今の全日本プロレスをどう見ているのか
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