「誰かに似てるって言われて喜ぶ人なんていない」――爪切男のタクシー×ハンター【第二話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。

【第二話】「誰かに似てるって言われて喜ぶ人なんていない」

 この連載の初回にも書いたように、渋谷で働いていた時は、いかがわしいメルマガの編集長を務めていたのだが、私以外の編集部員が全てB系のラッパーという特殊な編集部だった。朝礼時に一同を見渡すと、全員がベースボールキャップをかぶっているという有様で、朝礼というより野球部の試合前のミーティングにしか見えなかった。ある時「一体感出したいんで、編集長もこの帽子かぶってくださいよ! 絶対似合うっス!」とダイダラボッチによく似た部下からベースボールキャップをプレゼントされた。翌日から、その帽子をかぶって仕事をするようになった私は、野球部の監督の気持ちが少し分かった気がした。決して良いものではないが、そこまで悪いものでもない。

 ある日の朝礼にて、いつもなら朝っぱらから「DOPE!」とか「ウェッサイ!」とか騒いでる部下達が皆一様に元気が無い。最後の夏が終わった甲子園球児のような落ち込みだ。どうしたことかと理由を訊ねてみると、皆が尊敬しているアメリカのラッパーが亡くなったことがその理由だった。何とか元気付けてあげようと、色々思案していると、ティラノザウルスによく似た部下から「仕事前に、みんなで黙祷を捧げてもいいっスか?」と思わぬ提案があった。このまま辛気臭い感じで仕事をやられては、こちらとしても困るので、全員で黙祷を捧げることにした。部下達は、死んだラッパーのことをちゃんと思い浮かべることが出来ただろうが、ラッパーのことを何も知らない私は、おそらく黒人であろうと予想されるラッパーの姿をぼんやりと想像して黙祷を捧げた。そのうちマイケル・ジョーダンの顔しか浮かばなくなってしまい、もう面倒だったので、まだ生きているマイケル・ジョーダンに黙祷を捧げた。安らかに、ジョーダン。

 思い返してみれば、私は死者に対する敬意というものが足りていない人間だ。育ちが貧乏な為に、満足におもちゃを買い与えてもらえなかった少年時代の私は、近所の墓場を自分だけの遊び場所にしていた。いじめっ子達が近寄って来ない墓場は私だけの楽園だった。墓場でよくしていた遊びは、全く知らない家の墓石に刻まれている故人の名前や年齢等から、その人がどんな人生を歩んだのかを妄想する遊びと、無抵抗な墓石に対し、自分が歌いたい曲を一方的に歌うという墓場リサイタルでよく遊んでいた。私が当時大好きだったイエローモンキーの曲を一方的に歌われ続けた死者達は、いったいどんな気持ちだっただろうか。死者への冒涜行為は、大人になってからもとどまることを知らず、幽霊とセックスしたいという欲望から、毎晩全裸で寝ては、エロい女の幽霊の出現をひたすら待ち続けるといった暴走を見せ、生者と死者の両方に迷惑をかけながら恥の多い人生を送っている。

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