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「ウンコを漏らした日はライディーン」――爪切男のタクシー×ハンター【第三話】

 前置きが汚くなったが、ようやく今回のタクシーの話である。  その日乗り込んだタクシーの運転手は、少し貧相な顔をしていたが、髪は小泉元総理のようなウェーブがかかった見事な長髪で、そのアンバランスさが魅力といった中年男性であった。戦国時代でたとえるならロン毛の足軽兵といったところか。騎馬隊に入るつもりで意気揚々と髪を伸ばしてきたら、足軽隊所属になってしまった男の顔と言ったら伝わるだろうか。伝わるわけがない。お前は運転手のことをそこまで言えるだけの顔をしているのかと問われたら、どんなに辛いことがあっても笑顔だけは忘れずに生きていこうと、毎日笑って過ごしていたら「君のしわくちゃの笑顔って虫の裏側に似てるね」と言われたことがあるぐらいの悲しい顔をしているので、多少の暴言は許して頂きたい。  先日、ウンコの妖精にそっくりだと言われたことを思い出した私は、小さい時は糞をよく漏らす子供だったこと、大人になってからも、たまに糞を漏らすダメな大人であることを話した。全く興味が無い感じで私の話を聞いていた運転手は、大きく深呼吸をした後に言った。 「まぁ……ウンコって出す物ですけど……漏らす物ではないですからね……自分で出そうと思って出した結果なら納得もいくと思うんですね……でも……漏らすというのは自分の意思ではないですよね……自分でコントロールできなかったということですから……それは落ち込みますよね……」  この人は何を言ってるんだ。 「じゃあ運転手さんはウンコを漏らしたことあるんですか?」 「私がウンコを漏らしたことがあろうがなかろうが……運転手に必要なのは……お客様を安全にお届けする運転技術だけですからね……」  ウンコが原因で人を殺してしまうかもしれない。 「運転手をやっていると……いろいろな迷惑なお客さんがいましてね……嫌なことがあった時は……そのことをちゃんと三回言ってみるんです……声に出して言ってみるとね……不思議とすっきりするんですよ……お客さんもやってみてください……」  今日、ウンコを漏らしたことにされている。  最初にウンコの話をしたのは私だ。大人の男としてその責任を取り、今日ウンコを漏らしたことにした。 「私は今日ウンコを漏らしました」 「私は今日ウンコを漏らしました」 「私は今日ウンコを漏らしました」  静寂に包まれた車の窓から見える渋谷の街の光がこんなに綺麗だなんて初めて知った。長い長い沈黙の後、運転手は極めて明るい声で言った。 「ウンコを漏らすような辛いことがあったんだから……この後は何をしたって楽しいじゃないですか! 前向きにいきましょうよ!」
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仮に私が悩めるトランペット奏者だったとしよう
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死にたい夜にかぎって

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