「あと一杯だけ奢ってくれ! 飲みたいんだ!!」――46歳のバツイチおじさんはインドで完全になめられた〈第30話〉
インド人①「何が食べたい?」
俺「ビールが飲めれば何でもいいかな」
インド人①「ビール飲みたいの?」
俺「うん。暑いからグビッといきたいな」
インド人①「………」
俺「あ、そうか、インドで酒飲むの、結構大変なんだよね」
インド人①「いや、大丈夫。俺が案内するよ」
昨晩、ガンジャマンと飲んだバーはパレスからは遠すぎる。
だが、目立たない場所にひっそりたたずむ『Bar Beer&wiskey』と書かれた店があるのを、俺は密かにチェックしていた。だから、この近くにも絶対ビールが飲める店があるはずだ。
3人は猛暑の中、ビールを探してマイソールの街を歩き回り、クーラーの効いた薄暗いバーになんとかたどり着いた。
薄汚れたバーの薄汚れたテーブルに着くと、英語が話せないインド人②が再び誰かに電話をかけた。そして俺を見ながらニヤニヤしている。
インド人②「@#$%%&」
インド人①「こいつ、弟と話してほしいってよ」
弟にはさっき自慢してたはずなのに、まだ自慢し足りないらしい。
まぁいい。そのくらいは容易い御用だ。俺は電話に出た。
俺「もしもし」
弟「………」
俺「もしもし、日本から来たごっつって言います」
弟「………」
電話は無言。30秒近い沈黙が続き、電話をインド人②に返した。
すると、インド人②は、弟と電話で爆笑しながら話しをした。
日本人と話せたのが相当嬉しいようだ。
二人は興奮し、何やら異様な盛り上がり見せていた。すると…
インド人①「また、電話に出て欲しいって言ってるよ」
俺「また?」
インド人①「うん」
インド人②のほうは興奮し、ニヤニヤ笑いながら俺に電話を渡した。
俺「もしもし」
弟「……」
俺「もしもし、英語しゃべれますか?」
弟「……」
また無言だ。どうやら、兄弟揃って全く英語が理解できないらしい。
全く会話にならないので電話を返すと、またもや兄弟で盛り上がった。すると…
インド人①「また電話に代わって欲しいと言ってるよ」
俺「え? また? もういいよ」
インド人②は俺を見てニヤニヤしている。
俺は少し舐められている気がして、いい気がしなかった。
「失礼なやつだな」
俺はガンジャマンと出会ってインドで“漢”を磨く決意をした。
こんなとこで舐められちゃぁ漢がすたる。
俺「おい。いい加減にしろ。こっちの気持ちも考えろよ」
そう言ってその申し出を断った。
良い人ぶるのも少々疲れた。
するとインド人②は、謝る素振りもなくへらへらと笑った。
俺は少しカチンときたが、こらえた。
俺「飲もうぜ!」
そう言うと、インド人②は電話を切り、インド人①と並んでこちらを見た。
インド人①「飲みたいけどカネがない。車に置き忘れてきた」
は? 出たよ。ガンジャマンと同じだ。たかる気か?
俺「カネがなくてどうするの?飲めないじゃん」
インド人①「貸してくれ。後で返すから」
俺「本当か?」
インド人①「本当だよ」
俺「俺、そんなにお金持ってないぜ」
インド人①「だったらこいつを一旦車に返す。そしたらお金も一人分で済むだろ?」
英語が話せるインド人①は、インド人②を車に戻して自分だけここに残ると言った。
さっきまで肩を組んだり手を繋いだり、親友のように仲が良さそうだったのに。
俺「友達を返しちゃうの?」
インド人①「うん。ちょっと待ってね」
すると、インド人①は急に大声でインド人②に向かって怒鳴りだした。
インド人②は時には笑いながら、時には神妙な顔をした。
つか、なんなんだよこの展開……。
それにしてもこの二人、いったいどんな関係なのか?
さっきまでは大親友かゲイカップルに見えたのに。
今は「ドラえもん」のジャイアンとのび太に見えた。
インド人①「あいつを返したぞ。さぁ、飲もうぜ!」
俺「いいのか?友達返しちゃって」
インド人①「いいよ」
なんだか良くわからない。
自分が酒を奢ってもらいたいから友達を怒鳴り散らし、追い返すなんて。
よく見るとインド人①は風貌もジャイアンに似てるし、そのふてぶてしさが「お前のものは俺のもの!」感を醸し出している。あと、絶対に音痴だ。
とりあえず、酒を飲みたいという気持ちは過剰なほど強いようだ。
それにしても、そこまでして飲みたい?
少し面倒くさくなった。
俺「わかったよ。一杯目だけは奢るよ。ただし、最初の一杯だけだぞ」
インド人①「ありがとう。俺、ウィスキーがいい」
俺は酒が売ってるカウンターに行くと、俺用のキングフィッシャービールとジャイアン用のウィスキーの小瓶を買った。そして乾杯をした。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ