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「中国に朝貢せよ」でプチ炎上した外山恒一。その真意は「ほめ殺し」だった!?【1万字インタビュー】

中国をヨイショしまくり、近隣国に気を使わざるを得ない状態に持ち込め!

――でもそんなふうに中国にただおべっかを使って、それで日本の独立が守れるとも思えないんですが……。 外山:それはまた別の話です。ここまでの話は、どっちかというと単に歴史認識問題を有利に解決するための方便としての“中華主義”にすぎません。日本がアメリカに見捨てられるのも、だとすれば今のうちから中国につく以外にないというのも、“中華主義”云々とは無関係に言える単なる事実です。そして、中国につきながら中国の言いなりにならないようにするのも実は簡単です。それはただ時間の問題なんです。 ――時間の問題? 外山:アメリカではなく中国につく、という選択が早ければ早いほどいい、というだけです。落ちぶれつつあるとはいえ、日本は今なお世界有数の経済大国です。技術大国でもあります。そんな国が味方についてくれるというのは、中国にとっても悪い話ではないどころか、ぜひそうしてほしいぐらいであるはずです。韓国が味方についてくれるより、日本が味方についてくれる方が中国も嬉しいでしょう。日本の国力はこの先どんどん落ちていくでしょうが、3分の2ぐらいまで落ちてもまだ中国は日本を味方につけたいんじゃないかな。半分まで落ちると危ないと思います。だから早いうちなんです。早ければ早いほど、いわば“中華先生”が担当しているクラスで“先生の一番のお気に入り”というハナモチならん立場を確保して、中華文化圏の中で南北朝鮮ごときよりずっと優位に立てるし、時には“先生にモノ申す”権利さえ手中にできる。一方で、国力がどうあれ、アメリカに見捨てられてからではもう遅いです。こっちからアメリカを見限って、こっちの主体的意志として中国についた、という形にならないと相手にしてもらえません。 ――中国の味方をする、というのは具体的にはどういう……? 外山:日中の利害が対立する場合があるのは前提です。そういう時にはこっちはこっちの言いぶんを主張させてもらう。「そろそろPMナントカもどうにかしていただけませんか? 困ってるんです」と言って、なんなら日本で開発した最新の公害除去技術をタダで“献上”したっていい。日本以外の“中華文化圏”内部の問題に関しても同じです。南北朝鮮やモンゴルやベトナムや台湾といった、日本と同じく中国に対して弱い立場の周辺諸国と団結して、中国に対抗することもやっていく必要がある。しかし中華文化圏の外からの中国に対する諸々の圧力には、中国と手を組んで対抗する、という約束をするだけで中国にとっては充分に申し分のない利益であるはずです。 ――でもウイグルやチベットや、あるいは中国の国内の人権問題についての欧米の批判は正当なものでしょう? それでも中国の味方をするんですか? 外山:だから中華文化圏の内部では、中国以外の国々と団結しなければいけません。団結して、「ウイグルやチベットにも我々と同程度の“相対的独立”を認めてやってください」と“陳情”すべきです。しかし欧米が口出ししてきたら「うるせー、そっちのルールを押しつけんなバーカ」とアッカンベーをして中国の味方をしてやる。中国は嬉しいでしょう? そういうことが続けば逆に中国もだんだん、欧米からの要求ははねつけても、日本をはじめ周辺諸国からの要求には多少なりとも配慮してやらなければならなくなってくるはずです。“東アジアの盟主”として中国を立てまくり、ヨイショしまくりながら、いつのまにか中国の方が近隣の諸国に気を遣わなければならないような状況に追い込むべきなんです。 ――そんなことまでぶっちゃけてしまっていいんですか? 外山:あくまで今は日本国内向けの発言をしています。 ――それに中国の周りの国々が団結するというのも、なかなか難しいでしょう? とくに日本は韓国や北朝鮮との間にたくさん対立を抱えています。 外山:べつに日本がその団結の中心にならなくてもいいんですから。ベトナムあたりが中心になってくれるといいと思います。中国の周りの国々は、どこも今は中国の脅威におびえてますよ。中国と協調しようとしている韓国でさえ、要は中国が怖いからそうしているだけでしょう。しかし、おっしゃるように日本と南北朝鮮の関係をはじめ、簡単には仲良く団結できない事情もいろいろある。じゃあ日本は前面に出ずに、ベトナムに出てもらってはどうでしょうか。ベトナムにも日本はかつて一瞬進駐しましたし、ベトナムが必ずしも“親日的”であるかどうかは分かりませんが、南北朝鮮にほどは恨まれている気配もありません。こっちは負けましたが、どちらもアメリカと戦争したことのある国ですし、こっちは運よく台風が来ただけですが、どちらも元寇を撃退した国ですし、もしかしたら多少の親近感は持ってくれているかもしれません。元寇もそうですが、ベトナムは歴史上何度も中国に攻め込まれていて、70年代にも“中越戦争”をやったぐらいで、もともと反中意識の強い国です。 ――ほほう。 外山:しかも毎回最終的には中国を撃退していて、それどころかアメリカさえ撃退したような不屈の民ですから、中国もたぶんベトナムには一目置いて、あるいはベトナムだけは敵に回したくないと恐れてすらいるはずです。第二次大戦中の進駐については平謝りして、「いやーしかしお強いですね、私どもなんかアメリカの野郎にコテンパンにやられちゃいましたよ、ベトナムさんが叩きのめしてくれてスカッとしました」とかヨイショして、“いざとなったら強いベトナム”と“今なお中国に次ぐ経済大国・日本”が手を組んで、ベトナムを先頭に立て日本がそれを支えるという形で中国を牽制する陣形を作り始めれば、最終的には南北朝鮮だってこれに加わる他なくなるはずです。しかも日本より韓国のほうがベトナムにとって“最近ウチを侵略してきた連中”ですから、ベトナムと仲良くしている限りは、韓国は歴史認識問題で日本をどうこう責めたてようにも「そんなことを言うがお前らだってベトナム戦争の時に……」とベトナムに突っ込まれかねなくなるので、そこらへんも好都合です。 ――悪質なことばかり考えてますね。 外山:ファシストですから。ファシズムというのは、原理原則なんてものはないんだ、という認識を原理原則とする、“結果うまくいきゃあ何でもいいんだ”的な思想です。世界が単一の原理原則で覆い尽くされてしまうことに反対し、それぞれの地元のナショナリズムと結託して、今ならアメリカ的な“グローバル・スタンダード”に抵抗し、かつてイタリアやドイツの先輩たちは米ソ2方向からの自称“普遍的正義”に対抗したわけです。日本の独立なんか相対的なもので充分で、そもそも今だってアメリカの属国です。“完全な独立”を目指すことを原理原則として、相対的な独立さえ失ってしまうような結果になるのでは元も子もありません。望みうる最良の結果が相対的独立である以上、そこを目指して、あとはいくら姑息に立ち回ったっていいんですよ。 ――とはいえ、“周辺諸国の団結”は中国としても何としてでも阻止してくるんじゃないですか? 外山:それにも考えがあります。ベトナム主催で、あるいは主催持ち回りで、定期的に“大東亜会議”を開催するんです、中国抜きで。 ――ますます中国が許しませんよ! 外山:結論は毎回最初から決まってるんです。「これからも中華文化圏の一員としての自覚をもって、一致団結して中国を支えていきましょう」っていう決議を最後に必ずやる。それでも許さないと思いますか? ――うーん、どうでしょうね。自分抜きで周りに団結されるのはイヤでしょうし、しかし今後も自分に協力してくれるっていう趣旨の集まりなら……どうしていいか分からなくなりますね。 外山:ウイグルやチベットからも代表を招く。もちろん中国からの“完全な独立”ではなく“相対的独立”に要求をとどめる穏健路線の指導者を呼んで、それぞれの地域でそういう勢力が影響力を拡大するのを助ければ、自暴自棄なテロ路線に走る完全独立派を抑えることにもなって、中国としても却って都合がいいはずですよ……とかなんとか、いくらでも正当化できます。 ――中国が「だったらオレも参加させろ」と言ってきたら? 外山:宗主国様に直々に出てこられたんじゃ、我々属国はみんな萎縮して、何にも言えなくなっちゃうじゃないですか。シーンと静まり返った会場で、さっすが中国代表のありがたい独演を我々は一方的に拝聴するしかない、って“会議”になっちゃうに決まってます。そうなると中国への不満が小出しにガス抜きできずに溜まり始めて、しかもそれを大っぴらに言えないもんだから内攻して、そういう話はオープンな場ではなく、水面下で秘密にやろうという展開になって、何やら良からぬことを企む国も出てくるやもしれません。宗主国様への“お願いごと”を属国代表どもがオープンな場で話し合って、利害調整して、その上で「いかがでございましょう」って宗主国様にお伺いを立てる方が、そちらとしても余計な心配がなくて結構なことなんじゃないかと思いますですがねぇ……。 ――よくもそう次から次へと口から出まかせを……。
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「中国が世界の中心」という建前「だけ」を共有すればいい
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ポップにして真摯、大胆にして正統的、ライブ感あふれる、「役に立つ日本史」


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