お金

世の中には情弱語があると思うとわかりやすい――連続投資小説「おかねのかみさま」

「いくら?」 「ご…」 「ご?」 「ごじゅうまんえん…」 「!!!」 「あらやだ。けんたくんそんなにお金もってたの?」 「いえ…ローンにしてもらいました。すっごくカワイイ子がこーーーんな近くで、甘あぁい匂いがほわ~ってなるくらいの距離で勧めてくれたんで、その、つい…」 「ローンなら払えるじゃろ」 「は、はい。毎月15,000円なのでなんとか払えるんですが、よりによってそのプログラムで損しちゃいまして…なんていうんですか、えーと証拠金を追加しなくちゃだめみたいに言われてるんです」 「ほう」 「そんなもの、ほっといたらいいじゃねぇか。お前はそもそも失うものがないところが唯一の長所なんだから、踏み倒ししまえ」 「で、でも、もしこれを踏み倒したら僕どうなるんでしょう。自己破産っていうんですか?そうなったら実家の親にも知られるし、たぶん学校にもいられなくなるし、仕事だって起業どころじゃなくなるし、このままずっと居酒屋リグレットで働くなんて、僕はどうなっちゃうんでしょう」 「店名的には最高の店員よね…」 「あぁ」 「で、払込まなくちゃいけないのはいくらなんじゃ?」 「76万円…です…。明後日までに…」 「くはー。デカイねぇ。もう逃げちゃえ。旅にでろ」 「…」 「でもひどい話ねぇ。健太くんみたいな子を騙してそんな風にお金儲けに使うなんて。ちょっと許せないわ」 「ママ、それはちがうんじゃ」 「なにが?」 「けんたくんみたいな子は、そうじゃな、言語に例えるとわかりやすいんじゃが情弱語で暮らしているんじゃ。英語とか日本語とか中国語とかみたいに、世の中には情弱語があると思うとわかりやすい」 「ほう」 「つまり、情弱語のメッセージというものは、情弱以外には響かない。なぜなら母国語じゃないからな。しかしそのかわり、情弱のみなさまには驚くほどに効果がある。しかも情弱のみなさまは疑うことも知らんから、底引き網でガンガン穫れる。これは善悪の問題ではなくて、メッセージの受け手にも問題があることなんじゃ」 「でも健太くんがいくら情弱だからって騙すのは悪いことでしょ?」 「確かに騙すのは悪いことじゃ。しかし、情弱民じゃなかったとしたら、そもそもその言葉に流されることもなかったんじゃ」 「あのー…」 「なんだ」 「じょうじゃくってなんでしょうか…」 「んー」 「…」 「どうぶつに例えるといいかな。ライオンだとおもう?」 「い、いえ…」 「じゃあなんだとおもう?」 「しまうま?」 「近づいた」 「も…もしかして…カモですかね…」 「正解!!!」 「よかったじゃなーい♡」 「カモだな。カモ。俺はコールセンターでマンション売ってるから、カモ猟師くらいかな」 「むらたは人間かどうか微妙じゃの」 「うるせぇよ」 「さ、それじゃあ健太くんの逃亡先でも相談しましょうか♪」 「!!!!逃亡って!ぼく!旅行は高速バスで名古屋しか行ったことないし!そんな!」 「あのな健太。俺がいうのもなんだけどな。情弱を卒業するために必要なことを教えてやる」 「おっ」 「な…なんですか……」 次号へつづく 【大川弘一(おおかわ・こういち)】 1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。 Twitterアカウント https://twitter.com/daiokawa 2011年創刊メルマガ《頻繁》 http://www.mag2.com/m/0001289496.html 「大井戸塾」 http://hilltop.academy/ 井戸実氏とともに運営している起業塾 〈イラスト/松原ひろみ〉
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