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「終わらせる勇気がないと何かを始めることはできない」――爪切男のタクシー×ハンター【第六話】

 適当に帽子を見繕っていると、黒人は、私が店外に出れないように入口を塞いで立ちながら「お兄さん! エッチな女の子は好き?」と甲高い声で聞いてきた。どうやら噂は本当だったようだ。 「エッチな友達でも紹介してくれるの?」 「違うよ、お兄さんはちゃんとお金払ってエッチなことしてもらうよ」 「あんまりお金ないから遠慮しとくよ~」 「3万円で生で最後までやれるよ~。安いでしょ?」 「全然安くないよ~、帽子買うから許してよ~」 「帽子も3万円だよ、同じ値段なら女買う方がいいよ」 「帽子と同じ値段の女って何か嫌だな~」 「お兄さん、帽子か女かどっちか買わないと帰れないよ」  帽子か女のどちらかを買わないと生きて帰れない。貧乏な家計をやりくりして、大学まで卒業させてもらったのに、「帽子か? 女か?」というわけの分からない二択を迫られる人生を送ってしまい、親には本当に申し訳が立たない。  私が頑なに購入を拒否し続けると、黒人は明らかに苛立ちはじめ、「それなら、考えがあるよ……」そう言って自分のズボンのベルトを少し緩めた。 「しゃぶらされる!」  私の中のもう一人の私が叫んだ。  どうやらこの黒人は男もイケるらしい。私はフェラをしないと許してもらえないようだ。金額にすると3万円らしいので3万円分のフェラをしないといけないが、なにぶん初めてなもので3万円分のフェラがどういうものなのか分からない。  仮にしゃぶってしまったとして、しゃぶった後の人生をどのように生きていけばいいのだろうか。しゃぶった後って、夢を持って生きてもいいのだろうか。そうだ、政治家にでもなろうか。政治家というものは金と権力に弱いものだが、黒人をフェラした後の私ならば、金や権力に屈しない強い意志を持っているかもしれない。  普通に考えて、しゃぶるだけで終わるとは思えない。順番で言えばしゃぶった後にお尻を掘られてしまうだろう。それだけは是が非でも回避したい。ケツだけは守ってみせる。そのためには世界最高のフェラをするしかない。フェラだけで満足して許してもらうしかない。目の前の黒人は世界最高のフェラが自分を襲うとは万に一つも思っていないだろう。その慢心を突く。黒人よ、日本を甘く見たな。後悔するがいい。  ワンワン泣くこともできるし、ゲラゲラ笑うこともできるよく分からない感情が心の中を埋め尽くす。目の前にはオスカー・ピーターソン似の黒人がうすら笑いを浮かべている。オスカー・ピーターソン。私の大好きなジャズピアニスト。分かった。そうか、この感情か。この何ともいえない感情から黒人はジャズを生み出したのか。目の前にダラリとぶら下がった黒人のブツを見た瞬間、私はジャズの本質を知った気がした。ここから日本の新しいジャズが生まれる。私が本当のジャズをするのだ。父よ、母よ、私は本当のジャズを知ります。少し勃起し始めた黒人のブツをまっすぐ見つめ、いよいよしゃぶる覚悟を決めた私はあることに気付いた。 「ここってクレジットカード使えますか?」  私は分割の6回払いで3万円のハンチング帽を買い、見事にフェラを回避して生還した。
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私は初めてジャズを聴いて泣いた
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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