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「おちんちんの大きさとか気にしなくていいんですよ」――爪切男のタクシー×ハンター【第七話】

 運転手は長考の末、答えを導き出した。 「お客さん、私、おちんちんって刀だと思うんですね」 「……刀? 刀ですか?」 「男しか持っていないものだし、勃起した時って刀みたいに勃つじゃないですか?」 「人それぞれ大きさが違うので、日本刀の人もいれば、ナイフの人や彫刻刀の人もいるでしょうけどね」 「そうですね(笑)。でもこれが自分の刀なんだって思ったら面白くないですか?」 「そう思えば、オナニーの手の動きは、自分の刀を研いでいるみたいでいいですね」 「確かに(笑)」 「そうか……チンコは刀か……世界共通ですしね、外人はサーベル、中国の人は青竜刀……」  突拍子もない答えのようでしっくりくる答えをもらった私は、運転手は「チンコ」ではなく「おちんちん」と言う派なんだと思いつつも、運転手の言葉に感動していた。さらに運転手は続ける。 「でも刀って絶対に鞘に入れないと錆びちゃうじゃないですか?」 「そうですね」 「その鞘が女なんですよね。男は自分の刀をちょうどよく納められる鞘を持つ女と結婚するんです」 「……すごくロマンチックな話ですね、すごくいい!」 「だからね、おちんちんの大きさとか気にしなくていいんですよ。自分の刀にあった鞘の女がいますから」 「……はい!」  こんな下品な話なのに仕事の悩みが晴れたばかりか、これからの先の人生までが明るく思えてきた。  かのギタリスト布袋寅泰は言った。「ギターも日本刀も両手で持つのがいいよね」と。布袋さん、チンコも刀らしいです。  私は、その日の帰宅後から、自分のチンコを日本刀と見立てて、両手でのオナニーを始めた。とかく両手ではやりにくい。短小なので両手を添えるだけの長さがない。やりにくいが、武士が自分で一度決めたことを簡単に翻すわけにはいかない。武士道を構成する「義・勇・仁・礼・誠・名誉・忠義」の精神の中の「誠」を守り、私は両手でのオナニーをやり続けるのだ。そう、私の刀を納めてくれる運命の鞘を持つ女に出会うまで、私に立ち止まる時間などないのだ。短小なので全ての鞘に余裕をもって納まるのは間違いないが。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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