宗教団体の総本山で信者専用の巨大釣鐘を鳴らせ!――爪切男のタクシー×ハンター【第九話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。

爪切男【第九話】「本当に良い女は静かな場所に居る」

 今回は渋谷を離れ、地元である四国に帰省した時の話である。今回帰省した目的は親友の結婚式に出席するためだ。結婚式の華やかな雰囲気がとにかく苦手で、よほどのことがない限り、誰に招待されても欠席を決め込んでいた私だが、幼少時代からの幼馴染で、お互いに貧乏な家庭に生まれ、金持ちの子供を忌み嫌っていた同志でもある親友の結婚式なら出席しないわけにはいかない。

 彼との出会いは小学生の時、出会った場所は近所のゴミ捨て場だった。漫画本を買うお金がなかった私は、ゴミ捨て場に捨てられる漫画雑誌を貪るように読んでいた。ビッグコミックなどの大人向けの漫画雑誌でもかまわず読んでいたので、小学生にしてジョージ秋山の『浮浪雲』を愛読するよくわからない子供になっていた。ある時、中学生のヤンキーがそんな私をバカにしに来た。自分たちを無視して漫画を読み続ける私に腹を立てた彼らは、いきなり殴りかかってきた。激しく抵抗したものの、中学生と小学生の体格差はどうにもならず、なすがままにされる私。そんな私を助けてくれたのが親友だった。たまたま暴行現場に出くわした彼は、ゴミ捨て場に落ちていた漫画雑誌としては極厚の太さである月刊少年マガジンを拾い上げ、それでヤンキーたちをぶん殴って降参させた。彼は言った。

「おい、これすごいな、この本なら人殺せるで」

 その運命的な出会いから、私たちは一緒に遊ぶようになった。ヤンキーとの一件で、月刊少年マガジンの武器としての有効性に気付いた彼は、護身用の武器として常に月刊少年マガジンを持ち歩くようになった。彼が近距離用の武器を使用するなら、相棒である私は、遠距離用の武器を持たないと戦闘時のバランスが取れないと考えた。私は熟考した末に、ファミコンのACアダプタコードを鎖分銅の要領で振り回すという大変危険な武器を編み出した。どこに行くのにも月刊少年マガジンとACアダプタコードを持ち歩く私たちは周囲に恐れられていた。「二人じゃなきゃダメなの」というのはこのような関係を言うのだろう。

 中学、高校に行っても私たちは運命共同体だった。「お前の敵は俺の敵、俺の敵はお前の敵」ということで、二人でさまざまな敵と戦った。私がいじわる農家にいじめられた時は、前屈姿勢で田植えをしている農家のおばさんの背後に回り込み、後背位の姿勢で激しく腰を打ち付けて、農業に準ずる者たちを辱めて回った。彼がお寺の坊主にいじめられた時は、お経を唱えている坊主をエアガンで射撃してお経を唱えさせなかった。彼が親にひどい虐待を受けた時も一緒に戦った。二人で一緒に勝ち目のない戦いをして、一緒に負けて、一緒に怒られた。

 私が県外の大学に進学し、大学卒業後も東京に移り住んだことで、地元にずっと残った親友とは徐々に疎遠になった。それでも彼がかけがえのない私の唯一の親友であることは変わらない。そんな彼が結婚する。ほっとしたような悲しいような複雑な気分だった。

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