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“みんな恋愛をしていない”現代の「恋愛小説の形」とは? 川村元気が2年ぶりの新作を語る

映画の現場での刺激が小説にも影響を与える

――多忙なプロデューサー業と小説家、どう時間を配分しているんですか?  単純に昼間はプロデューサーの仕事で、夜と週末は小説を書いているという感じですよ。やっぱり頭が書くモードに切り替わるのに3時間くらいはかかるので、家に帰ってボーっとして深夜2時くらいから書き始めて朝までやって、3時間くらい寝てまた映画の仕事をはじめるみたいな。だから体ボロボロですよ(笑)。  でも完全に頭を切り替えるというよりも、映画作りで得ている感覚は、小説に生きてくるんです。映画の現場では、それこそ今一番とんがっている監督や俳優と“つばぜり合い”をするわけです。そこってすごく自分を問われる場なんですよね。「お前のやりたいことなんだ?」「それは時代に合ってるのか?」って。映画ってその時代の最先端のクリエイターが集まる場所なので、そこでやりあっていると、自分の頭の中で処理できないものがカーッと生まれてくるんですよね。そういう疑問や知りたいことを、書くってことでバランスをとっている部分はあります。

映画プロデューサーとしての活動で得たものも、小説に大きな影響を及ぼしている

――アウトプットの場所でインプットも同時に行う、といった感覚でしょうか?  そうなんです。映画っていろんなジャンルのクリエイターが集まる場所なんで、多様な刺激を貰えるんですよね。僕も与える物は与えながら、自分も貰う感覚というか。例えば『バクマン。』という映画でサカナクションに音楽を作ってもらった時に、「ミュージシャンってこういう風に物語を観るんだな」って思う瞬間があったんですよ。ほかにも『君の名は。』でもRADWIMPSに書いてもらった歌詞に触れて、「あぁ、自分の小説でもこういう表現ができるかもしれない」って気づかされたり。その両輪が、今のところ自分が物を作るモチベーションになっているんでしょうね。 ――とはいえ、処女作「世界から猫が消えたなら」でいきなり大ヒットしたことは、プレッシャーにはならないんですか?  なりますね、もう呪いのように。でも僕、映画『電車男』でデビューしたときも過分のヒットをして、そのとき26歳だったんです。それが一つの基準になってしまうことがあったんで、その後はやっぱり大変で。それでも映画はいろんな巡りあわせのなかでの話なんで、小説はモロに自分単独の問題なんで辛いです。だからひとつ決めたのは、ヘンに何かを無理やり生み出そうとするんじゃなくて、素直に自分が切実に知りたいこと、そして読みたいものしかやらない、ということ。そしたら結果売れなくても、自分が知りたいことだからいいじゃないかと。  ただ……自分が知りたいと思っているんだから、同じ時代を生きる世の中の100万人の人たちも知りたいと思っているんじゃないか、とは信じて書いているところはあるんです。そう思ってないと生きていけない(笑)。 ――ちなみに、もし本作が映画化されたと仮定して「誰の音楽」が劇中に流れるとイメージに合いそうですか?  そうですね……、まずタイトルがサイモン&ガーファンクルの曲名なんですけど、その許諾料は相当高いでしょうからね(笑)。例えば、星野源さんが思い浮かびますね。この本の帯にも推薦文を書いてもらっているんですが、主人公の藤代と星野さんって、どこか通じるものがあるんですよね。すごくいいラブソングを書いているけど、どこか本人は底知れない絶望を抱えているというか……。そんなこと言ったら本人から怒られそうですけど(笑)。 <取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/水野嘉之>
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