「今夜、君に恋に落ちてしまいそうだぜ」――46歳のバツイチおじさんはクサすぎるセリフをさらりと口走った〈第32話〉
ケリー「ごっつ、事件が起きたみたい」
俺「え?」
ケリー「昨日、このすぐ近くのお寺のお祭りで大火事が起きて100人近くの人が死んだの知ってる?」
俺「あー、ネットで見たような。英語だからよく読んでないけど」
ケリー「でね、インドの首相モディがそこを訪れるみたい。私、写真を撮りに行くけど、来る?」
俺「うん。行く!」
コーヒーテンプルを出ると、ケリーはローカルのインド人に聞き込みを始めた。
どうやら、モディ首相はバルカラビーチのはずれにあるヘリポートに一旦やってくるらしい。
急いでヘリポートに向かうと、すでに200人ほどのインド人が集まっていた。ちなみに観光客らしい外国人は俺たち二人だけだ。
俺「うわ、すごい人。モディ首相、人気だね」
ケリー「人気かどうかはわからないけど、南インドのこんな田舎にインドの首相が来るのよ。人が集まって当然でしょう」
俺「確かに、俺の田舎に日本の安倍首相が来たらこれぐらい人が集まるかも」
インドの人口は日本の8.7倍の11億人。その代表になる人物ってどんな人なんだろう?
俺の野次馬根性に火がついた。
ぜひとも彼の顔を写真に収めたい。
その後、二人で一時間半ほどヘリポートで待った。気温は35度を超えていて、直射日光の下だとその体感温度は40度を超えている。俺とケリーは1リットルサイズのペットボトルで水をガブガブ飲みながら、汗ダラダラで首相の到着を待った。
すると、上空から2台のヘリコプターが飛んで来るのが見えた。
俺「あのヘリじゃない?」
ケリー「たぶんそう。私、近くに行ってみる!」
俺「俺も行く!」
俺も取材モードになり、人々をかき分け、ヘリが降りるポイントの一番近くにポジションを取った。
警察「ダメダメ。これ以上近寄るな」
30人以上の警察がすでに待機しており、テレビの取材クルーも入っているようだ。緊急とはいえ11億人のトップの到着。当然といえば当然の厳重警備である。警察官の顔は真剣そのもので、少しピリピリしてるように感じた。
すると、黒塗りのハイヤーが2台、ヘリが降りるポイントへ近づいてきた。どうやら、あの車に乗るようだ。
俺「あのヘリから降りて、ハイヤーに乗るまでが勝負だね」
やがて、2台のヘリは旋回しながらヘリポートへ着陸した。集まった人たちのテンションがマックスに上がった。
俺「来た。あれだ!」
ケリーは何も言わず一眼レフを構えた。
ケリー「違う、やられた!」
俺「ん?」
ヘリから降りてきたのは首相ではなく、白い服を着たスタッフっぽい男たちだった。
一体、何が起きたのか?
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