「今夜、君に恋に落ちてしまいそうだぜ」――46歳のバツイチおじさんはクサすぎるセリフをさらりと口走った〈第32話〉
そう言うとケリーはTシャツを脱ぎタンクトップになった。そして、ズボンを履いたまま海のほうへ走って行き、そのまま海に飛び込んだ。アラビア海の波は日本よりもはるかに大きくうねり、泳ぐのは困難に見えた。しかし、ケリーはそんな荒海などものともせず、沖のほうまで綺麗なフォームのクロールで泳いで行った。
俺「ワイルドだぜー」
俺は無意識にスギちゃんみたいなことを口走った。
服を着たまま荒波に向かって泳ぎ続けるケリーはどこまでもワイルドであり、そして美しく見えた。
テレビディレクターという仕事柄、マスコミで働く女性たちとは共に多くの仕事をしてきた。彼女たちは自分の意見をはっきりと喋るパワフルな女性が多い。しかし、世界を旅し記事を書くケリーは、日本で働くパワフルな女性を凌駕する「ワイルド」さがあった。
泳ぎ終わったケリーは、タオルで髪の毛を拭いていた。
なかなかセクシーだ。
ケリー「ごっつは泳がないの?」
俺「俺はいいかな」
ケリー「そう。あーお腹すいた。晩御飯一緒に食べない?」
俺「いいよ」
ケリー「じゃあ、私シャワー浴びてくるから7時にコーヒーテンプルに集合ね」
そう言うとケリーはカメラバッグを肩にかつぎ、波打ち際を歩いてゲストハウスに戻って行った。
その後ろ姿はなんとも男前で、死に際に「我が人生に一片の悔いなし!」と見事な一言を放った『北斗の拳』のラオウのような闘気を纏ってるかのように見えた。
夜7時、コーヒーテンプルで落ち合うと、ケリーは一転してドレスっぽい衣装に着替えていた。
その姿にラオウ感はなく、スギちゃん感ももちろんなく、素敵な大人の女性へと変身していた。
そのギャップに一瞬ドキッとした。
こんなことなら、俺も髪の毛をもっと決めてくれば良かった。
俺は髪を手でグイグイとかき分け、イギリス紳士のような8・2分けを無理やりつくった。
顔はザ・モンゴリアンフェイスの農耕民族だが、気分は英国紳士。
そうでもしないと、自分の中の白人コンプレックスがニョキニョキと顔を出してしまいそうだった。
その後、待ち合わせ場所を離れ、二人で崖の上をぶらぶらと散歩した。
海風のおかげで涼しく、すごく心地いい。
俺「あれ? これはもしかして、デート??」
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