名言引用ドヤ顔おじさんの蛮勇――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第14回

【第14回 ポケットに名言と下心を】

 私の父というのは翻訳を得意とする学者で、最近の代表作ではエーリッヒ・フロムの翻訳などを手がけている。で、ちょっと前に銀座で一緒に食事した際に、これ新刊だからあげるよと言われて渡された本が、彼が監修したフロムの名言集のような本であった。帯には「私たちは本当の『愛』をまだ知らない」と。ま、ちょっと風俗嬢への説教ぽい台詞ではあるが、本自体はとても簡潔で、フロム自体を読む気力も時間もないような人にはいいんだろうと思った。

 しかし、近年、大きめの書店などで名言集の類の存在感が嫌に増している気がする。本を読んで楽しいとか、伝記が面白いとかいうことってまだわかるんですけど、名言集好きな人、多くは男だけど、のメンタリティはよくわからない。でも確かにいる。社員のやる気を喚起するためのメールの末尾に必ず誰かの引用を入れる人。引用は私も好きだけれど、そもそも好きな一文とかって文脈あってのフレーズだったりするので、名言集から一文ひっぱってきてメールにつけるとちょっとださい。というか、例えば松下幸之助がこう言ったとかってさも自分が考えた言葉かのようなドヤ顔で言ってくるオジサンには心から「いや、お前が偉いわけじゃないから」と突っ込んでしまうのは女子の性である。大体、松下幸之助くらいお金持ちな鬼才に言われたら納得のいく言葉でも、ただのハゲ散らかしたおじさんに言われて納得がいくとは限らない。

 そう、オジサンというのは、なんだか名言を威張るために使いがちなのである。本来であれば読み聞きした本人の血肉になるべき、せめて、若い初学者を説得したり言いくるめたりするのに使われるべきものである。なんか、赤い看板とか出ている居酒屋で焼き鳥食べながら、トリュフォーの映画一本も見てないような、ヤンキーとギャルの区別もつかないようなオジサンにニーチェとか言われてドヤられても。お金もないのにキャバクラに来てバシャール流とかドヤ顔で教えられても。

 まぁまぁ涼美さん。まだ可愛げがあるのです。そういうオジサンは。だって、つまるところは要するに、ただのハゲ散らかした自分の言葉じゃこの海千山千の女子たちを黙らせることはできない、という謙虚さがほんの少しだけはかいま見えるから。しょうがない、俺の言葉は届かないだろうし、ここはニーチェの力を借りとこう、的な。そういう哀愁があるぶん、書店でカーネギー名言集とかパラ見しているオジサンはとりあえずここではヨシとしよう。私たちとしても、そんなに暇じゃないし、そうそう人権団体みたいに世の中のあらゆるものに突っかかってもいられない。

 だがしかし、名言「引用」ドヤ顔オジサンが許せても、私たちが許せない…というかどうしても酒の肴にして吊し上げないと気がすまないのが名言「製造」ドヤ顔オジサンである。酒の席やメールで名言をつくっちゃうひとだ。そういえば私の先輩の映画プロデューサーで「愛した女を抱くなんてことは考えず、抱いた女を愛せ」と言う迷言を残した中年がいるが、そういう面白い迷言ではなく、あたかも偉人のようなやつ。

次ページどうしても許せない、名言「製造」ドヤ顔オジサンとは?

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか

慶応大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修了。本書がデビュー作。

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