恋愛・結婚

名言引用ドヤ顔おじさんの蛮勇――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第15回 【第15回 ポケットに名言と下心を】  私の父というのは翻訳を得意とする学者で、最近の代表作ではエーリッヒ・フロムの翻訳などを手がけている。で、ちょっと前に銀座で一緒に食事した際に、これ新刊だからあげるよと言われて渡された本が、彼が監修したフロムの名言集のような本であった。帯には「私たちは本当の『愛』をまだ知らない」と。ま、ちょっと風俗嬢への説教ぽい台詞ではあるが、本自体はとても簡潔で、フロム自体を読む気力も時間もないような人にはいいんだろうと思った。  しかし、近年、大きめの書店などで名言集の類の存在感が嫌に増している気がする。本を読んで楽しいとか、伝記が面白いとかいうことってまだわかるんですけど、名言集好きな人、多くは男だけど、のメンタリティはよくわからない。でも確かにいる。社員のやる気を喚起するためのメールの末尾に必ず誰かの引用を入れる人。引用は私も好きだけれど、そもそも好きな一文とかって文脈あってのフレーズだったりするので、名言集から一文ひっぱってきてメールにつけるとちょっとださい。というか、例えば松下幸之助がこう言ったとかってさも自分が考えた言葉かのようなドヤ顔で言ってくるオジサンには心から「いや、お前が偉いわけじゃないから」と突っ込んでしまうのは女子の性である。大体、松下幸之助くらいお金持ちな鬼才に言われたら納得のいく言葉でも、ただのハゲ散らかしたおじさんに言われて納得がいくとは限らない。  そう、オジサンというのは、なんだか名言を威張るために使いがちなのである。本来であれば読み聞きした本人の血肉になるべき、せめて、若い初学者を説得したり言いくるめたりするのに使われるべきものである。なんか、赤い看板とか出ている居酒屋で焼き鳥食べながら、トリュフォーの映画一本も見てないような、ヤンキーとギャルの区別もつかないようなオジサンにニーチェとか言われてドヤられても。お金もないのにキャバクラに来てバシャール流とかドヤ顔で教えられても。 ⇒この続きは連載をまとめた単行本「おじさんメモリアル」で 【鈴木涼美(すずき・すずみ)】 83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎)発売中。現在は日経新聞を退社し、執筆業を中心に活動。幻冬舎plusにて「愛と子宮が混乱中 夜のオネエサンの母娘論」を連載中。LINEブログはhttp://lineblog.me/suzukisuzumi/ (イラスト/ただりえこ 撮影/福本邦洋)
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

おじさんメモリアル

哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録

おじさんメモリアル

著者が出会った哀しき男たちの欲望とニッポンの20年
日刊SPA!の連載を単行本化


「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか

慶応大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修了。本書がデビュー作。

身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論

「お乳は生きるための筋肉」と語る夜のおねえさんの超恋愛論

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